赤羽末吉の絵本

安曇野ちひろ美術館では、現在
生誕111年 赤羽末吉展 絵本への一本道
を開催中です。 [2021年3月1日(月)~5月30日(日) ]

展覧会にあわせて、「赤羽末吉が手がけた絵本」をご紹介します。

『かさじぞう』

瀬田貞二・再話 赤羽末吉・画
出版社:福音館書店
出版年:1961年

雪降る大晦日、寒そうに並ぶ地蔵さまに心やさしい爺さんは売り物の傘をかぶせてあげました。正月の明け方、爺さんの家を訪ねてきた地蔵さまは、ごちそうや宝物をお礼に届けてくれるのでした。
日本ではよく知られた昔話『かさじぞう』は、赤羽末吉が50歳で初めて手がけた絵本です。赤羽は、15年を過ごした旧満州(中国東北部)から引き揚げ、降り立った日本でまず「湿感の美しさ」を感じたといいます。雪深い東北・上越などへの取材を経て描いた絵本『かさじぞう』には、赤羽の日本の雪国への憧れが込められています。もかもかとした雪の湿った感じや、人の心の素朴なあたたかさを表現しようと、赤羽は墨絵の技法でこの絵本を描きました。また、見開きを全て扇形の枠に入れ、その周囲を藍の和紙に囲ませることで、雪の白さが強調されています。赤羽は『かさじぞう』について、「絵は稚拙でも初心があり、その後の作品はすべてかきかえたい気持でも、これだけは手がでないかんじだ。」と語っています。

 

『おおきなおおきなおいも』

赤羽末吉・さく/え
出版社:福音館書店
出版年:1972年

幼稚園のいもほり遠足は、雨で1週間延期になり、園児たちはがっかり。けれど、先生から、おいもは「7つ ねると いっぱい おおきくなって まっててくれるよ」と教えてもらった子どもたちは、想像の翼を広げます。おおきくなったおいもを想像して、紙を何枚も継ぎ足して巨大なおいもの絵を描きます。みんなで力をあわせて、おいもを掘り出したら、どうやって幼稚園まで運ぶ?トラック?ダンプカー?いいえ、「もっと もっと いいことが あるよ」。おいもで遊んで、おなかがすいたら、てんぷら、やきいも、だいがくいもにして、いただきます。最後は、おいもを燃料にして空の旅に出発?!
この絵本は保育の現場での実話を元につくられました。幼児の自由な心境に迫り、技巧的な表現を捨てた赤羽の筆は、おおらかな墨の輪郭線だけで、想像力と楽しさに突き動かされる子どもたちの姿をとらえています。子どもたちが描いた赤紫色のさつまいもがどれだけ大きいのかを表現するのに、14ページも費やした場面から、子どもたちの想像力が一気に加速していく展開は痛快です。

 

『黄金りゅうと天女』

代田昇・文 赤羽末吉・絵
出版社:銀河社
出版年:1974年(BL出版より2018年に復刊)

昔のこと、那覇(なは)から慶留間(げるま)の島(沖縄県)に移り住んだ若夫婦のもとに、たいそうかわいらしい女の子が生まれます。島の衆に可愛(かなー)とよばれ、まことに賢く不思議な子だと評判の女の子に成長しますが、七つの誕生日の朝に「わたしは天にいかねばなりませぬ」と言い残し、オタキ山へと走り去ってしまいます。ある日、島に大和の海賊が攻め入ってくると、天女を乗せた竜が竜巻を起こして海賊を退治し、島の人々を助けます。
沖縄の慶良間(けらま)列島を舞台にした創作民話です。赤羽は取材で訪れた島の印象を次のように記しています。「その砂浜の白砂の美しさ、それに続くエメラルドグリーンの海が、おしげもなく広がる。(中略)これは、単なるエメラルドの色ではない。深い海の底から投影されてくるふしぎな光の色だ。」大和の海賊を退治した黄金竜が、天女を乗せて飛翔するクライマックスの場面では、光り輝く海原を淡いブルーとエメラルドで表現し、波や岩の輪郭線には朱を用いることで、鮮やかな色の対比を生み出しています。美しい沖縄の風土の描写とともに、大暴れする竜のコミカルな表現にも注目です。

 

『ほうまんの池のカッパ』

椋 鳩十・文 赤羽末吉・絵
出版社:銀河社
出版年:1975年(BL出版より2018年に復刊

鹿を手づかみで生け捕り、牡牛をねじ伏せるほどの力持ちの男・とらまつ。たくさんの鯛を釣った帰り道、ほうまんの池の近くで、急に足が動かなくなりました。すると地面からたくさんの手が出てきて、魚をみんなつかみ捕ってしまいます。おかしな手の正体は、カッパ。やり返したいとらまつは、あくる日も池でカッパを待ちますが……。
椋鳩十が種子島のカッパの話に着想を得てつくった物語。赤羽は、南国らしいおおらかさを表現するために、色彩的に描くこと、光線の強さをだすために「ギラギラとハレーションを起こした感じにする」ことを試みました。余白を生かした白い背景とぷつぷつと途切れそうな細い輪郭線は、強い日差しを想像させます。さらに、とらまつとカッパの違いを際立たせるために、とらまつを日に焼けた浅黒い肌の骨太の大男に、カッパを白い肌で小さく曲線的に描いています。それが物語の終盤になると逆転し、カッパの仕返しを受けた大男のとらまつが小さくなり、カッパは大きな目を闇に光らせます。

 

『ひょうたんめん』

神沢利子・文 赤羽末吉・絵
出版社:偕成社
出版年:1984年(復刊ドットコムより2017年に復刊)

種子島の昔話。馬をひいて塩を買いに行ったおとじろうまごじろうという男が、山道を歩いています。ひょうたんめん、というおそろしいおばけがでるといわれているので、急いでいると、うしろから声が!塩を置いていかないと馬を食うぞ、といわれ、男は塩をおいて逃げ、ひょうたんめんは、塩をおいしそうに食べます。やれやれ、と思ったら、またひょうたんめんの声が……。
怖いおばけの話ではあるものの、赤羽の描くひょうたんめんは、どこかにくめません。おとじろうまごじろうとひょうたんめんはどちらも三等身で漫画的に描かれていますが、おとじろうが無表情なのと対照的に、ひょうたんめんの、のっぺりとした顔の目や口は不気味に変化します。くせになりそうな魅力のある1冊です。

 

『あかりの花』

中国苗(ミャオ)族民話
肖甘牛(シャオカンニュウ)・採話 君島久子・再話 赤羽末吉・画
出版社:福音館書店
出版年:1985年

中国苗(ミャオ)族に伝わる民話。働き者の若者トーリンは、あかりの花から現れた美しい娘と暮らし始めます。トーリンと娘は、日夜いっしょに働きますが、暮らしが豊かになるとトーリンは怠け者になってしまいます。娘は悲しみ、ある満月の夜、あかりの花から現れた金鶏鳥(キンケイチョウ)の背に乗り、月の世界へと去って行きました。
この民話を手がけるにあたり、「本来昔話は、サラリと語られるものだが、それはけっして説明的なソッケないものではあるまい。それは生活のなかから生まれた、重みと響きがあるはずである」と赤羽は語っています。
1932年に旧満州(中国東北部)に渡り、終戦の2年後に引き揚げるまでの15年間を過ごした赤羽は、1983年に『あかりの花』を描くために中国を再訪し、現地を取材しました。山の斜面に広がる段々畑や、野菜や手作りの品々が並ぶ市場のようす、髷を結った頭に巻く縞模様の布、石でつくられた小さな臼――苗族の素朴な暮らしと優美な文化が細やかに描き出されています。

 

『おへそがえる・ごん』全3巻

赤羽末吉・作
出版社:福音館書店
出版年:1986年

赤羽末吉自身が文章も手がけた全3巻のシリーズです。おへそを押すと口から雲が出るかえるのごんが、少年・けんや、手のある黒蛇のごんと出会い、戦に駆り出されたけんの父親を探す旅へと出かけます。第1巻は『ぽんこつやまのぽんたとこんたの巻』、2巻は『おにのさんぞくやっつけろの巻』、そして3巻は『こしぬけとのさまの巻』。各巻100ページを超える大長編絵物語で、力を合わせて奇妙なおばけをやっつけたり、村人を苦しめる鬼の山賊や、戦好きの殿様をこらしめたりしながら、旅は続いていきます。12世紀の絵巻「鳥獣人物戯画」にも通じる軽やかな墨線で、ごんたちの活躍がユーモアたっぷりに描かれています。子どもたちを心底笑わせたいと、赤羽が長年あたためてきた構想が結実した絵本です。