理念について

いわさきちひろ お姉さんとあかちゃん 1971年

ちひろ美術館(公益財団法人いわさきちひろ記念事業団)は、 「子どもの幸せと平和」「絵本文化の発展」という二つの理念を掲げて活動しています。 絵本は、言葉や文化、国や民族の違いを超えて、0歳から100歳を超える方までが楽しめる文化財です。世界中で、未来を担う子どもたちが絵本に親しみ、豊かな心を育むことを願って、ちひろ美術館は日々活動を続けています。

建築について

建物の時間

安曇野ちひろ美術館の設計に着手したのは1993年。鮮やかに記憶に残っているのは、設計競技の応募案を作成するために敷地を見に行ったときのことです。季節は初秋、稲穂が豊かに実った黄金色の段々畑、わずかに冠雪した白馬連峰が彼方に見えました。こんな美しい風景を壊して公園にし、さらに建物まで建ててよいものか、という印象を持ちました。この風景を壊すのなら、それに見合うような場所をつくらねばならないと思いました。

建物が完成する直前のこと、東京から遠く離れた安曇野のような所で果たして人が来てくれるのだろうか、と松本猛さんが呟いたことが思い出されます。まさに、ちひろ美術館にとって、安曇野の開設は乾坤一擲(けんこんいってき)の挑戦だったのです。設計を任された私たちも、必死でその思いに応えようとしました。

安曇野が竣工して一息ついた頃、東京館の改修の話が持ち上がりました。多くの人の記憶に残っている建物を、保存しながら大切に使っていきたい、ということでした。ところが、改修案が決まりかけた頃、念のために行った調査でコンクリートがかなり傷んでいること、さらに、阪神大震災以降改正された法規では、建物の構造が不適合になることがわかりました。やむを得ず、新しく建て直すことになりました。前の建物の記憶を残すように、大きな木を残し、配置にも工夫を凝らしました。新しい建物なんだけど昔と変わっていない気がする、と山田洋次さんに言っていただいたときには本当にホッとしました。

安曇野は増築を重ね、機能を充実させ、立派な規模の美術館へと育ちました。東京館は、木々も建物もすっかり周囲の住宅地にとけこんでいます。ちひろ美術館に行ってきましたよ、とうれしそうに声をかけてくれる人によく会います。どなたも美術館で過ごした豊かな時間のことを語ります。これは、美術館の方たちのホスピタリティーの賜物だと思います。建物は豊かな時間の背景のようなものであってほしいと願っています。

内藤 廣

建築家

1950年生まれ。1976年早稲田大学大学院修士課程修了。フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所(スペイン・マドリッド)、菊竹清訓建築設計事務所を経て、1981年に内藤廣建築設計事務所を設立。2001年に東京大学大学院工学系研究科社会基盤学助教授となり、2002年から教授、2010年から2011年までは副学長を務める。2011年から同大学名誉教授。主な建築作品は、海の博物館(1992)、安曇野ちひろ美術館 (1997)、牧野富太郎記念館(1999)、ちひろ美術館・東京(2002)、島根県芸術文化センター(2005)、日向市駅(2008)、高知駅(2009)、虎屋京都店(2009)など。また著作には、『建築のはじまりにむかって』『建築的思考のゆくえ』、『建築のちから』(以上、王国社)などがある。

内藤廣建築設計事務所

シンボルマークについて

ロゴマーク

1997年、安曇野ちひろ美術館のオープンと同時に、このシンボルマークが使用されることになりました。いわさきちひろさんの絵をシンボルにすることが、まずひとつの方向として考えられるわけですが、ちひろ美術館は「世界の絵本」の紹介など、ちひろさんの絵だけに留まることなく、広く世界に開かれた美術館であることから、さまざまな方向を検討しました。結果、ちひろさんの絵のなかでも特に印象的な「ひとみ」をモチーフに、抽象的そして象徴的なシンボルマークを考えることにいたしました。そして、このように中央の小さな円が、上下の形に守られるように支えられている形になりました。この小さな円は、瞳に映る子どもの姿をあらわしていて、それはちひろさんが見守る子どもの姿そのものです。子どもは瞳の中で、囲まれるのではなく、外の世界と左右で繋がっています。外の世界に遊びに行っても、いつも安心できる場所として帰ってくるところがある。まさに「ちひろ美術館」はそのようなところなのではないだろうかと思うのです。

佐藤 卓

グラフィックデザイナー

1979年東京藝術大学デザイン科卒業、1981年同大学院修了、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所設立。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」「エスビー食品 SPICE&HERB」などの商品デザイン及びブランディング、「クリンスイ」のグランドデザイン、金沢21世紀美術館や国立科学博物館などのシンボルマークを手がけるほか、NHK教育テレビ「にほんごであそぼ」の企画メンバー及びアートディレクター、21_21 DESIGN SIGHTのディレクターも務めるなど、多岐にわたって活動。

佐藤卓デザイン事務所