[表紙の作品]いわさきちひろ『りゅうのめのなみだ』(偕成社)より 1965年

人々に恐れられていたりゅうが、ひとりの子どもの純真なやさしさに心をうたれ、涙を流す――。浜田広介が1925年に発表した童話「りゅうの目のなみだ」は、「善意の文学」といわれる「ひろすけ童話」を代表する一作です。ちひろはこの童話を、『日本児童文学全集7』(偕成社)のなかの挿し絵として1962年に描いていました。その3年後、偕成社が初めて絵本を出版するにあたり、広介自身が絵本のために文章を短く書き直しました。ちひろにとっても初めての物語絵本となった作品で、広介のファンタジーの世界を視覚化しようと、南の国の子どもやりゅうの表現に工夫を凝らしています。