[表紙の作品]いわさきちひろ かにを持つ少年 1969年

夏の昼間、大きな麦わら帽子をかぶった少年がなにかを見つめています。
この絵では、紙の地の白が、輝く光をあらわしています。陰になる部分を暗くするのではなく、最も描きたい子どもの顔を描きながら、光にあふれた背景や、反射する白いTシャツを、紙の白に消失させています。背景に具体的なものは描かれていませんが、手にしたかにが、川辺や海辺を想像させます。少年のやや淡い色のひとみは、日差しのまぶしさや、ふと顔を上げたときに目に入った景色、そのときの心の動きを映しています。絵を見る人それぞれの、夏の日の記憶を呼び覚ます一点です。