出展作品のご紹介①

開催中の展覧会「いわさきちひろ ぼつご50ねん こどものみなさまへ あれ これ いのち」より、出展作品をご紹介します。

ちひろは、1974年に亡くなるまでの最後の22年を、東京の下石神井(現在のちひろ美術館・東京)にある家で暮らし、働きました。この時期はまさに高度経済成長期と呼ばれる時期と重なり、樹林や農地が宅地へと変貌し、自然が減少していった時期でもありました。
「どんどん経済が成長してきたその代償に、人間は心の豊かさをだんだん失ってしまうんじゃないかと思います。(……)私は私の絵本のなかで、いまの日本から失われたいろいろなやさしさや美しさを描こうと思っています。それをこどもたちに送るのが私の生きがいです。」と語ったちひろが描いた作品のなかには、たくさんの草花や生きものが登場します。「自然」ということばはあまりにも広く感じますが、作品に描かれている身近ないのちに注目することで見えてくることがあります。

いわさきちひろ 春の花とこぎつね 1964年

《春の花とこぎつね》には、手紙をポストに投函しようとしているこぎつねを覆い隠すように、さまざまな草花が描かれています。右側にはネコヤナギの木、左側にはキブシの花、手前にはハルリンドウ、スミレ、タンポポ、つくしなど……。展示企画協力を務めた鷲谷いづみ氏は「50年以上前には、東京区内でも武蔵野の田園で見ることができた在来の野生の花たち」だと述べています。ちひろが見て描いた自然を次の世代にも残していく責任が、大人たちにはあると感じさせます。

本展では、《春の花とこぎつね》を拡大ピエゾグラフで展示しています。鷲谷氏による詳しい解説とともにご覧いただけますので、ぜひ、ご注目ください。

◆2024年3月1日(金)~6月16日(日)
いわさきちひろ ぼつご50ねん こどものみなさまへ あれ これ いのち