歌と踊りと映画の絵本

安曇野ちひろ美術館では、現在
ちひろ美術館コレクション わたしたちは集い、歌い、踊る
を開催中です。 [2022年3月1日(火)~5月29日(日) ]

展覧会にあわせて、歌と踊りと映画の絵本をご紹介します。
こちらの絵本は、会期中、安曇野ちひろ美術館・絵本の部屋にてお読みいただけます。

 

『やまのディスコ』

スズキコージ・さく
出版社:架空社
出版年:1989年

やまに住むしろうまのみねこさんは、ディスコがオープンしたというポスターを目にして、やぎのさんきちくんを誘って、さっそく行ってみることにしました。やまのディスコの入場料は栗の実10個。中に入ってみると、やまの動物の他、よそから来た動物たちもたくさんいます。みなディスコは初めてのようで、生バンドによるロックンロールの演奏が始まっても踊る者はいません。みねこさんがエイッとかけごえをかけて踊ると、みなも踊り始め、蜂の巣のミラーボールがくるくるまわり出すのですが……。
スズキコージは、東京・六本木のディスコで踊った翌日、当時、栃木にあったアトリエへ行き、ふと天井を見ると、ミラーボールのような蜂の巣があったことから、この絵本の着想を得たといいます。黒い輪郭線を用いて、画面いっぱいにすき間なく描かれたディスコで大騒ぎをする動物たちからは、プリミティブなエネルギーが感じられます。

 

『ユックリとジョジョニ』

荒井良二・作
出版社:ほるぷ出版
出版年:1991年

森に住む歌がじょうずでアコーディオンをひく男の子ユックリと、町に住むダンスがとくいな女の子ジョジョニの出会いの物語です。アコーディオンをひいていたユックリは森を出て、ダンスをするジョジョニと出会います。ふたりはいっしょに踊りながら、知らない町へ向かいます。町の人たちにやさしく迎えられたふたりは、音楽とダンスをつづけ、大勢の人たちと楽しい時間をすごします。
ユックリの場面は緑色、ジョジョニの場面は水色といった色の使い分けや、服や帽子をはじめ単純化された形とポップな色合いが、明るく楽しい画面をつくり出しています。また「ブーバ・トリロリ」「クルリ・クル」といったことばのくり返しもリズミカルで、声に出して読むのも楽しめます。やさしい時間が流れるような絵本です。

 

『バレエ少女アーシャ』

ルコーニン・さく ドゥビードフ・絵 佐伯靖子・訳
出版社:新読書社
出版年:1996年

5歳の誕生日に、パパとママからぜんまい仕掛けの人形をもらったアーシャ。ぜんまいを巻けば、お話したり、歌ったり、踊ったりするというのです。ところが、どこを探してもねじまきが見つかりません。つまんない、とアーシャがつぶやいていると、優しい声が聞こえてきました。「わたしは、妖精のマーシャよ」。人形はどこかに消えて、よく似た女の子が空中に浮かんでいます。手にした金の棒をひとふりすると、昔の王さまの宮殿や、バレエで有名なマリインスキー劇場があらわれました。ある日、テレビでボリショイ・バレエ団による『白鳥のみずうみ』を見たアーシャは、バレエに心を奪われます。
画家のドゥビードフ(1932‐2000年)は、劇場でのバレエや大広間での舞踏会、ロシア民謡にあわせてコサックダンスを踊る民族衣装の村人たちなど、踊りを楽しむ人々の姿を原色に近い鮮やかな色彩で描き出しました。子どもたちに向けて「美術館や劇場やコンサートに行きなさい。音楽を聴きなさい。それは君たちに喜びを与える。」と語ったドゥビードフの思いが込められた絵本です。

 

『うたいましょう おどりましょう』

ベラ B. ウィリアムズ・作 佐野洋子・訳
出版社:あかね書房
出版年:1999年

アメリカで前年に出版された最もすぐれた子ども向け絵本に与えられる、コールデコット賞オナー賞を受賞した絵本『かあさんのいす』、2作目の『ほんとに ほんとに ほしいもの』に続く、三部作最後の絵本。
おばあちゃん、かあさん、そして、わたし。3人暮らしの一家で、おばあちゃんが病気になってしまいました。家族みんなで大きなガラスのびんにコツコツとお金を貯めて買った素敵な「いす」も、ひとりで座っては、からっぽのように感じられます。どうしたらおばあちゃんが元気になり、またいっしょにガラスのびんをいっぱいにすることができるでしょうか?わたしは、友達とバンドを結成し、パーティーで演奏することを思いつきます。
苦境のなかでも明るく前向きに日常を生き、家族や友達と助け合いながら奮闘する少女のようすが水彩で鮮やかに描かれています。絵本の見開きを縁取る模様や、背景の淡いにじみの色面が、登場人物が抱く思いやりの気持ちにあわせて、ページをめくるごとに色彩豊かに変化します。家族みんなで過ごす時間のあたたかさや、友達といっしょに奏でるメロディーの高揚感が伝わってきます。大切な人に寄り添いながら読みたいシリーズです。

 

『おどりのすきなとら』

松谷みよ子・作 井上洋介・絵
出版社:太平出版社
出版年:1999年

昔、朝鮮の山に、たくさんのトラが住んでいました。気の強いトラや泣き虫のトラ、ねぼすけのトラ、笛や長太鼓・チャングの音が聞こえると踊り出す、踊りの好きなトラもいます。ある日、木こりの少年が山に入ると、トラたちが襲いかかってきました。少年は間一髪、柳の木の上へ逃れますが、トラは一匹の上にまた一匹とトラ梯子を組んで、少年を追ってきます。「おれはここで、とらにくわれて死ぬのか」、悲嘆に暮れるなか、突然笛が吹きたくなった少年は、柳の枝で父親に教わった笛をつくり美しい音色を奏でました。
「ああおどりたい、おどりたい。」一番下にいた踊りの好きなトラは、トラ梯子を跳ねのけ、笛の音に合わせて踊り狂います。その間に少年は、笛を吹きながら逃げていきました。
トラたちが見せる愛嬌あふれる表情や動作が魅力的。個性豊かなトラや、切り立った山々など、韓国と朝鮮に伝わる民話の情景を、井上洋介ならではの大胆な筆致でユーモラスに描き出しています。

 

『ブタとタコのダンス』

長新太・作
出版社:学習研究社
出版年:2005年

ブタが海辺を歩いていると、突然タコが現れ、ピューッと飛んできて鼻の穴に入ってきます。ブタはタコに墨を吐かれてクロブタになったり、鼻をくるくる回されて腫れあがったりと大変な目にあいます。やがて、太陽に当たって体が固くなったタコは海へ帰ります。ブタもいっしょに海のなかへ入ると、タコが「からだを うごかして、やわらかく しよう。ダンスを しよう、ダンスを しよう」と誘ってきて……。
タコやイカは、長新太が気に入ってくり返し描いたモチーフでした。タコの表情は愛嬌たっぷりで、うねる触手は、伸びたり固くなったり、自由自在に形を変えます。魚やサンゴなど、海の仲間たちはカラフルな蛍光色で描かれ、水底の暗さを全く感じさせない楽し気な雰囲気です。
「ブーブー タコタコ ブータコタコ。
ブータコ ブータコ タコブーブー、
タコタコ ブタブタ タコブーブー。」
独特なオノマトペが表すダンスのリズムは、つい口ずさみたくなります。長新太は、踊ることの喜びを鮮やかな色彩やオノマトペで表現しました。

 

『わたしは映画監督 ヤング・シャーロット』

フランク・ビバ・作 まえじま みちこ・訳
出版社:西村書店
出版年:2016年

シャーロットは動画を撮影するのが好きな女の子。それも、モノクロの!何でも黒と白がお気に入りで、ちょっと変わっている彼女は、学校にも家族にも理解されずに時々落ち込むことも。でも、毎週金曜日の夜に、お父さんと映画館で名画を見るのは楽しみです。そんなシャーロットが住むニューヨークには、近代美術館(MOMA)があり、美術館には映画も所蔵され、上映会もあることを知ります。その映画部門で働くスカーレットとは年齢の差を超えて、何故か気が合います。美術館で見た、古いモノクロの映画に触発されて動画をつくり、彼女に見せたところ、上映会を開いてくれることに!
MOMAがつくったこの絵本はポップでユーモラスなイラストレーションにより、どこにでもいそうな女の子が美術館とつながることによって、新たな人生を切り開くようすを描いています。