いわさきちひろ 赤い帽子の男の子 1971年

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<企画展>「ちひろさんの子どもたち」谷川俊太郎×トラフ建築設計事務所

いわさきちひろ(1918~1974)の生誕100年にあたる2018年、東京・安曇野のふたつのちひろ美術館では、「Life」をテーマに、さまざまな分野で活躍する7組の作家がちひろとコラボレートした、いわさきちひろ生誕100年「Life展」を開催しました。ちひろの絵や人物像にそれぞれの作家の視点と表現からアプローチしたこの展覧会の取り組みは、今の時代にふさわしい、新しいイメージの“ちひろ”を開いていきました。
本展では、安曇野館で「Life展」を開催した詩人の谷川俊太郎と、トラフ建築設計事務所が、谷川の書き下ろしの詩のタイトルでもある「ちひろさんの子どもたち」をテーマに、東京館でコラボレートします。

ちひろさんの子どもたち

ちひろさんの子どもたちは
赤んぼのようにまっさらで
大人よりいっしょけんめい考える
女の子はいつもすっぴん
男の子は戦争がきらい

ちひろさんの子どもたちは
手足のびのびいっぱい遊ぶ
昼間は本を読む 夜は宇宙を読む
友だちには子どもだけでなく
おじいさんやおばあさんもいる

ちひろさんの子どもたちは
悲しい時は堂々と泣く
怒っても悪口は言わない
うれしい時はみんなと笑う
花や小川や紋白蝶もいっしょに

谷川俊太郎 2017年

 

子どもになれる詩人と画家

20歳のときに初めての詩集を発表して以来、詩人として長年第一線で活躍している谷川俊太郎。谷川は、大人に向けた現代詩と並行して、子どもも楽しめる詩も手がけてきました。ひらがなだけを使い、日本語の音のおもしろさを伝える『ことばあそびうた』や『わらべうた』、子どもの目線から世界のあらゆるものごとを見つめた詩や、子どもの内面に深く迫る詩も発表しています。谷川の詩は、子どもたちに日本語の豊かさを伝え、親しみやすい身近なことばで哲学を語り、宇宙にまで広がる世界を見せてきました。
ちひろより13歳年下の谷川は、ちひろの生前からその絵を知っていましたが、子どもがかわいくて甘い感じを警戒していたといいます。当時の谷川は、和田誠や長新太、堀内誠一、瀬川康男等と絵本づくりに取り組み、詩人ならではのことばのセンスで、子どもの本の可能性を切り開いていました。

時を経て、2018年に谷川がちひろの子どもの絵にことばを寄せた初めての絵本『なまえをつけて』が刊行されました。谷川は年を重ねることを木の年輪のようにとらえ、自分の内に子どもの存在を見ています。「ちひろさんは絵で子どもになれる。僕はことばで子どもになれる」と、谷川はいいます。ページをめくるごとに、15人の子どもが登場するように構成されたこの絵本では、顔の部分をアップにして目の位置や大きさをそろえ、あえて絵の周囲をトリミングしています。絵本をひらくと、男の子も女の子も、あかちゃんも、絵のなかの子どもたちひとりひとりが、こちらを見つめて語りかけてきます。それぞれの子どもがなにを見て、なにを思い、どんな個性を持つのか――谷川はことばによって、子どもたちに新たないのちを吹き込みました。ふたりの個性は異なりますが、その詩と絵が組み合わさったとき、単体で味わうときとはまた違う、豊かな世界が立ち上がります。

スケッチブックを持つ青い帽子の少女

どっかへいこうよ
いっしょにいこうよ
はしっていこうよ
ちきゅうのうえを!

『なまえをつけて』(講談社)より 2018年

いわさきちひろ 花の精

いわさきちひろ 花の精(部分) 1970年頃

とけてしまいそう ほんとにうれしいとき
だれとでもなんとでも なかよくなって
おおきなおおきな ひとつにとけこんでしまいそう

『なまえをつけて』(講談社)より 2018年

子どもの「帽子」がつなぐ展覧会

ちひろのイメージから「子どものへや」をつくろうとしたトラフ建築設計事務所は、部屋のようすが描かれている絵がほとんどないなか、ちひろの絵に帽子をかぶっている子どもが多いことを発見します。「帽子は子どもにとって、一番身近な家のように安心感を与えてくれるものなのかもしれない」との考えから、トラフは大きな麦わら帽子の形の「子どものへや」を設計しました。トラフが選んだちひろの帽子の子どもの絵から、谷川の新作詩「ぼうしさん」も生まれました。この帽子自身が心をもってことばを語る谷川の詩は、身近なものに愛着をもって友だちのように感じる、子どもの感覚そのものです。
帽子は本展をつなぐモチーフとなり、子どもたちを展示空間へと誘います。会期中、大きな帽子のなかでは、ちひろと谷川の世界を体験できるワークショップやえほんのじかんも行います。子どもに楽しく参加してもらうことはもちろん、大人の内なる子どもも目覚める展覧会です。

トラフ建築設計事務所 空気の器

トラフ建築設計事務所 空気の器 撮影:三嶋義秀

トラフ建築設計事務所 子どものへや 2018年 撮影:三嶋義秀 安曇野ちひろ美術館にて

ぼうしさん

いすのうえにわすれられて
ぼうしはすこしさびしくなりました
あたまのうえにいるほうがすきなのです
ときどきそらとおしゃべりできるから

あたまがおしえてくれるので
ぼうしはなんでもしっています
6たす6が12だということも
12が1ねんのつきのかずだということも

ぼうしはかぶってくれるようちゃんがすきですが
ほんとはそらとぶえんばんになって
まいごのながれぼしをさがしたいのです
ようちゃんがまっててくれるかしんぱいですが

あ ようちゃんがおでかけです
いすのうえからあたまのうえへ
ぼうしはなんどもひっこしします
かぜにとばされないでね ぼうしさん

谷川俊太郎 2019年

海を見つめる少女

いわさきちひろ 海を見つめる少女 1973年

月を見る少年

いわさきちひろ 月を見る少年 1970年

 

谷川俊太郎

谷川俊太郎

(1931~)

東京生まれ。1952年第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行。1962年「月火水木金土日の歌」で第4回日本レコード大賞作詞賞、 1975年『マザー・グースのうた』で日本翻訳文化賞、 1982年『日々の地図』で第34回読売文学賞、 1993年『世間知ラズ』で第1回萩原朔太郎賞、 2010年『トロムソコラージュ』で第1回鮎川信夫賞など、受賞・著書多数。 詩作のほか、絵本、エッセイ、翻訳、脚本、作詞など幅広く作品を発表。 近年では、詩を釣るiPhoneアプリ『谷川』や、 郵便で詩を送る『ポエメール』など、 詩の可能性を広げる新たな試みにも挑戦している。

 

鈴野浩一、禿真哉(トラフ建築設計事務所)

トラフ建築設計事務所

鈴野浩一と禿真哉により2004年に設立。建築の設計をはじめ、インテリア、展覧会の会場構成、プロダクトデザイン、空間インスタレーションやムービー制作への参加など多岐に渡り、建築的な思考をベースに取り組んでいる。「光の織機(Canon Milano Salone 2011)」は、会期中の最も優れた展示としてエリータデザインアワード最優秀賞に選ばれた。2015年「空気の器」が、モントリオール美術館において、永久コレクションに認定。