宮沢賢治といわさきちひろ

2023年は、宮沢賢治 没後90年にあたります。
賢治は、1933年(昭和8年)9月21日、37歳の若さでこの世を去りました。

当時14歳だったいわさきちひろは、画家の岡田三郎助に師事をした年でした。日本が戦争へと突き進む時代にあり、20代に戦争を体験したちひろは、賢治の童話や詩に出会い、その作品世界と思想に惹かれていきます。

「私の娘時代はずっと戦争のなかでした。(中略)日一日と暗い、おそろしい世の中に変わっていきました。そんなころに私ははじめて宮沢賢治の作品にふれたのです。(中略)素晴らしい交響楽のゆたかな音のなかにいる時のように、私にはもう外のものはなにもきこえないような気がしました。」

このように記したちひろの敗戦直後の日記「草穂」には、賢治の名や詩の一節などが度々つづられ、のちにこの時期の心境を「命のように大切だった」と語っています。
その後20年以上のときを経て、ちひろは賢治の童話に絵を描き、『花の童話集』(童心社1969年)として結実しました。

賢治が童話を書き始めたのは1918年とされており、この年はちひろの生誕年であることもまた、不思議なめぐりあわせといえるかもしれません。

いわさきちひろ ひなげし『花の童話集』(童心社)1969年