紙を操(あやな)す

赤羽末吉は、国際アンデルセン賞画家賞受賞(1980年)の前年に完成させた絵本『つるにょうぼう』(福音館書店)では、雪国を背景に献身的な女性の哀れさをあらわそうと考えたといいます。そして、雪の場面を奉書(ほうしょ)に描くことを思いつきます。

赤羽末吉 『つるにょうぼう』(福音館書店)より 1979年

奉書は、和紙の一種ですが、『かさじぞう』(福音館書店)で雪を描いた中国画仙紙と比べ、にじみの感度が低く、ふっくらとしたやわらかな雪の丸みを表現するのに適していました。赤羽は、屋外の晴れと曇りの日の空気の違いを描くためにそれぞれ奉書の色を変えています。また、屋内には暗さのみならず、貧しさまでも表現するために麻紙(まし)を選び、裏から色紙を貼るなど、工夫をこらしています。

翌年に手がけた『お月さん舟でおでかけなされ』(童心社)では、ほとんど絵筆を使わず、典具帖という薄い和紙を重ね、雲竜紙や波型紙と組み合わせることで、神沢利子の詩の抽象性を語らせ、美しい画面を構成しています。

つづく『そばがらじさまとまめじさま』(福音館書店)では、8種類の紙を用いて場面ごとに物語を演出しています。そばがらじさまが、あぶやはち、へびに刺され、かじられる場面の背景には、ゴワゴワとした和紙が使われ、いかにも痛そうなようすが皮膚感覚で伝わってきます。

ちひろ美術館・東京で開催中の展覧会では、これらの作品の原画が一堂に会しています。
あわせて展示中の『お月さん舟でおでかけなされ』の和紙見本は、赤羽の手によるもので、さまざまな和紙を重ねたり、折り返すなど、作品の表現を探求した軌跡の一端を見ることができる貴重な資料です。

◆生誕111年 赤羽末吉展 
日本美術へのとびら 
2021年9月26日まで開催中です。
同時開催:ちひろの花鳥風月
https://chihiro.jp/tokyo/exhibitions/

(K.R.)