いわさきちひろ 「麦わら帽子をかぶったおにた」 1969年

大きな眼、大きな鼻、褐色の肌、縮れた赤毛、麦わら帽子に隠されているのは、角です。黒鬼の子ども、おにたは、人目につかないように、家に住みつき、人々の暮らしを見守り、陰ながら手助けをする親切な鬼です。それとは知らない人間は、節分の夜、豆撒きをしておにたを追い払ってしまいます。おにたは、角をかくすために麦わら帽子をかぶって、静かに家を出ていきます。ふっくらした頬や、帽子のひもをぎゅっと握りしめる手の表情にあどけなさがありますが、まっすぐにこちらを見つめる透徹した瞳は、強い光を放っています。人の心の機微を知り、優しい心を失わないおにたの性格が表れているようです。