ショーン・タン 『アライバル』より 2004~2006年

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<企画展>ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ

本展は、昨年、ちひろ美術館 ・東京で開幕し、大きな反響を呼びました。新型コロナウイルス感染拡大の影響で開始が遅れましたが、安曇野での展覧会に寄せて、タン本人からイラストレーションとともにメッセージが届きました。

この重大局面のさなかに、私の展覧会に足を運んでくださり、心から感謝申し上げます。世界中が難しい問題を共有している今、芸術や大切な物語への愛も、もしかするとこれまでよりもっと、みんなで共有していることに改めて気づかされ、心が温まりました。安曇野ちひろ美術館で私の作品を展示し、少しヘンテコな夢をご提供できることを、とても名誉に思います。その夢のなかに、思いがけずおなじみの何かを感じていただけると嬉しいです。そして、どこへ行くにもスケッチブック片手の芸術家仲間たち、ようこそお越しくださいました。あなたの小さな落がきから、大きなアイディアが育っていきますように。
ショーン・タン 2020年5月29日

ショーン・タンの手帳 2008-2009年

今回の展覧会で初公開されたもののひ とつが、アイデアスケッチを描き留めた 手帳です。この手帳には、数年前に発表された絵本に登場する不思議な 生き物が息づいていたり、数年後にひとつの物語に展開するイメージがページの 片隅に描かれています。「僕には“半分までできているけれどまだ新しいアイデ ィアが加わることを必要としているアイ ディア”がたくさんあります。」とタン は語っています※。彼が描くそれぞれの 物語は、どこかでつながっているようです。

壊れたおもちゃ『遠い町から来た話』(河出書房新社)より 2006年

『遠い町から来た話』には、15編の奇想天外な物語が収められています。物語ごとに異なるタッチで描かれた絵から、 多面体のように不思議な世界が現れます。物語の舞台には、タンが育った西オーストラリア、パース北部の開発中の町の情景が反映されています。「壊れたおもちゃ」は、ふたりの兄弟 が、郊外の住宅地に突然現れた潜水夫の後を追い、風変わりな老婆ミセスカタヤマとの接点を見出す物語です。日本人が出てくるこの物語のイラストレーションは浮世絵風に描かれています。

せっかくの計画を台なしにしないこと。『夏のルール』(河出書房新社)より2013年

この作品と並行してタンが構想していたのが絵本『夏のルール』です。この絵本にもふたりの兄弟が登場し、彼らが過ごした夏の経験と、そこで習得した教訓が描かれています。舞台は郊外の住宅地ですが、ロボットやモンスター、不思議な色の空、おかしな形の影、真冬の光景、そして各場面に偏在するカラスなど 不思議なもので満ちています。奇妙な光景は、ルールになぞらえた一行の文章が組み合わされることで、兄弟の関係性や心の内を物語るリアルな絵に見えてきます。例えば、「せっかくの計画を台なしにしないこと。」という文と組み合わされた場面では、敵の根城に忍び込み宝を盗み出すおとぎ話になぞらえ、大人に内緒でいたずらをして失敗をしたときの子どもの行動と心理が見事に描かれています。油彩による陰鬱な色彩と重厚な筆致がさらにおかしさを誘います。

階段『アライバル』(河出書房新社)より 2004~2006年

タンが描く世界は、どこかで通底しているようですが、その表現方法は多彩です。彼の名を世界中に知らしめた長編絵本『アライバル』は、全128頁にわたり言語を使わず、漫画や映画の文法を取り入れて、モノクロームの絵だけで物語を表現しています。挿し絵入りの短編集、絵本、文字のない長編絵本など表現形式を変え、漫画風にデフォルメした線、歴史画のようなドラマチックな油彩、写実的な描写など、いくつものスタイルで融通無碍に描かれています。そして、作品ごとに絵と文のバランスが吟味され、ことばが語らない部分を絵に語らせ、絵とことばのつなぎ目に私たちを誘います。文を読み、絵を見返すたびに隠れていた物語を発見できることでしょう。

※ショーン・タン インタビュー『ショ ーン・タンの世界 どこでもないどこか へ』(求龍堂)より 2019