田島征三 『ふきまんぶく』(偕成社)より 1973年

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<企画展>田島征三展『ふきまんぶく』―それから、そして、今―

田島征三は、幼いころから画家を目指し、80歳となった今もエネルギッシュに制作活動を続けています。本展では、33歳のときの絵本『ふきまんぶく』を起点とし、彼が常に表現してきた、いのちの諸相を紹介します。

田島は美術大学に入学後、商業デザインの世界に足を踏み入れたものの、自分が本当に描きたいものを追い求めます。そのひとつが絵本で、在学中につくった手刷り絵本『しばてん』により、絵本界に知られ、『ふるやのもり』(福音館書店 1965年)でデビューします。次の絵本『ちからたろう』が1969年BIBで金のりんご賞を受賞、急速に忙しくなるなか、自分らしい仕事ができる環境を求め、自給自足の生活をするべく、東京都西多摩郡日の出村へ同年9月に引っ越します。

『ふきまんぶく』とその時代

日の出村では鶏、ヤギ等を飼い、土を耕し、妻と幼い子どもたちと暮らしながら、制作にいそしみます。春、土手にふきのとうが芽を出し、それを村の人が「ふきまんぶく」と呼ぶのを知った田島は、「ふき」という名の少女と大地に生えるふきとの交流を描く絵本に取り掛かります。岸田劉生の麗子像などを研究して生まれた少女の顔は丸く、見開いた目と厚めの唇は土着的な強さを感じさせます。

『ふきまんぶく』(偕成社)より 1973年

いくつもの紙をつなぎ足し、その上に盛り上がるまで塗られた泥絵の具の質感は、ふきが育ち、少女が眠る土のにおいや香りまで伝えるようです。絵ごと異なる視点は、静かに進んでいくストーリーの各場面に新鮮な驚きを生み、絵本に豊かな変化をもたらしています。

『ふきまんぶく』(偕成社)より 1973年

田島は絵の創作と同時に社会の不正にも怒り、心を痛めます。「『政治に関わりたくない』人間として、『政治ギライ』の人々に対して『ベトナム反戦』の行動を起こそうと」「ベトナムの子供を支援する会」の中心メンバーとして活動します。斬新な反戦バッグ(和田誠デザイン)の制作提案にはじまり、1967年11月からは反戦野外展というかたちで仲間のイラストレーターたちにも広くよびかけ、毎月のように東京の街頭で多くの人がさまざまなパネルを展示しました。1970年には、いわさきちひろにも出品を依頼しています(同時開催「ちひろ いのちを見つめて」にて展示中)。
また、1964年9月、神奈川県の厚木基地から飛んだ米軍機の墜落事故で息子3 名や社員を亡くした舘野正盛さんの支援のために、1979年田島は絵を描きました。B全の画面には、被害者の顔のみならず、バッタや鳥、花も描かれ、あらゆる命を視野に入れた田島の視点がうかがえます。

舘野正盛さんを支援す
る会パネル 1979年

それから(1980年代~1997年)

日の出村は、1974年には日の出町となり、この自然豊かな地に更なる変化が起きたのが1983年です。谷戸沢廃棄物広域処分場が美しい森に建設され、さらに、1989年にふたつ目の巨大ゴミ処分場が建設される計画を知り、田島は反対運動を起こすことを決めます。ゴミ問題に打ち込み、創作のための時間を失いながらも「これは日の出町だけの問題ではない。(……)日の出町の谷戸沢処分場からの漏水問題を究明し、第二処分場の計画を中止させられなければ、この25年間、日の出町から発信してきたぼくの作品は全部ウソになってしまう。」と田島は運動を続けます。その最中、この問題を絵本にしてはという編集者の提案を受け、田島が初めて、「社会的メッセージを伝えるためにつくった絵本」が、『やまからにげてきた・ゴミをぽいぽい』です。

『やまからにげてきた・ゴミをぽいぽい』(童心社)表紙 1993年

この絵本では、ふたつの話が本の表と裏から始まります。表からは、山に住む動物たちを主人公とした「やまからにげてきた」、裏からは、大量生産、消費、廃棄をする人間を描いた「ゴミをぽいぽい」という話が描かれ、最後に同じ場面でつながり、ふたつの異なる立場からゴミ処分場の裏にある現実をあらわにする構造になっています。この絵本の描く身近なテーマは、古びることなく、2007年には台湾で翻訳出版もなされ、読者に問いを投げかけ続けています。

そして、今

日本のアジアに対する侵略という過去の事実を見つめ、平和の大切さを絵本で伝えようと、田島征三ら4 名の画家が中国、そして韓国の絵本作家たちによびかけ、2005年日中韓平和絵本プロジェクトが始まります。3 か国から4 名ずつの画家が参加し、それぞれの絵本を3 か国で翻訳出版しています。田島はトルコの詩人ヒクメットの詩「死んだ女の子」に着想を得て、戦争で死んでしまった兵士の立場から、『ぼくのこえがきこえますか』を制作します。半具象と抽象でなるこの絵本は、見えない感情や死んだものの魂などを描きながら、戦争の虚しさを語る、異色な取り組みでした。

『ぼくのこえがきこえますか』(童心社)より 2012年

そのほか、本展では田島の少年時代の体験をもとにした、最新作(2020年夏 偕成社より出版予定)の絵本『つかまえた』のための作品や、近年のタブローも展示します。