魔法の絵本=絵本の魔法展の見どころ紹介① ドイル兄弟

ちひろ美術館・東京で開催中の「ちひろ美術館コレクション 魔法の絵本=絵本の魔法」では、ちひろ美術館のコレクション作品のなかから、「魔法」をテーマに9か国20名のアーティストの作品と資料を展示しています。その見どころを、展示担当学芸員が、全4回にわたり紹介します。

「魔法つかい」というと、どのような姿を想像しますか?
長いローブをまとい、先のとがった帽子をかぶり、杖やほうきを持ったわし鼻の老人……。こうしたイメージは中世ヨーロッパの賢者や占星術師の姿に由来するともいわれています。絵本の世界では、脈々と魔法使いや魔女のイメージが受け継がれてきました。イギリスの画家、リチャード・ドイル(1824–1883)は、150年以上も前に、典型的な魔法つかいの姿を挿し絵に残しています。

リチャード・ドイル 魔女とほうき 1870年代(推定)

リチャード・ドイルは、妖精画の第一人者として活躍した画家です。絵本『妖精の国で』では、鳥や虫とたわむれる妖精の姿をいきいきと描いています。エドモンド・エヴァンズ(1826–1905)が手がけた質の高い多色刷りの木口木版印刷の技術により、妖精の世界が鮮やかに視覚化されています。豪華なつくりのこの絵本は、妖精表現のひとつの頂点を示すとともに、近代絵本の礎をつくった1冊としても歴史に名を残しています。

『妖精の国で』ウィリアム・アリンガム詩 / リチャード・ドイル絵 1870年刊

リチャード・ドイルの弟、チャールズ・ドイル(1832–1893)も妖精の絵を描いています。《妖精のダンス》では、個性豊かな妖精たちが繰り広げる魔法の時間が淡い水彩で表現されています。チャールズは建築技師として働く傍ら、妖精の絵を繊細な筆致で描きました。彼は、シャーロック・ホームズが登場する探偵小説を手がけた作家、アーサー・コナン・ドイル(1859–1930)の父としても知られています。ちなみに、コナン・ドイルは、真偽のほどが話題となった妖精の写真をめぐり、その実在を支持したといわれています。

チャールズ・ドイル 妖精のダンス 19世紀後半

当時、妖精が人気を博した背景には、失われていく自然や幻想的な世界への憧れがあったといえるでしょう。19世紀後半から20世紀初頭のイギリスでは、産業革命によって都市化や機械化が進み人々の生活が急速に変化していきました。理想的な自然や子ども時代の夢が妖精に重ねて描かれているのかもしれません。妖精が繰り広げる魔法の世界は、今も絵本のなかに息づいています。

◆5/15(金)~7/20(月・祝)初夏の展覧会
いわさきちひろ「とても素朴なんだけれど たいせつなもの、それが絵本の中にはあるんです。」
ちひろ美術館コレクション 魔法の絵本=絵本の魔法