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ちひろ美術館コレクション
魔法の絵本=絵本の魔法

美術館だより

「魔法」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか。「ちちんぷいぷい」「アブラカダブラ」など、魔法の呪文を聞いたことがある方も多いでしょう。人間がとうていできないような不思議なことを行う魔法の歴史はとても古く、世界各地で有史以前から宗教や呪術などと結びついて、探究され、伝えられてきました。神話や昔話のなかには、たくさんの魔法が登場します。そうした伝承をもとに、絵本のなかでも魔法は脈々と受け継がれてきました。本展では、ちひろ美術館の豊かなコレクションのなかから魔法が描かれた絵本、そして、絵本のなかの魔法の魅力を紹介します。

魔女

ほうきにまたがって空を飛ぶ魔女は、ファンタジーではおなじみの存在です。スラブの昔話に登場する魔女「ババヤガー」は、ほうきの代わりに臼に乗り、杵をオールのように使って空を飛びます。森の奥深くにあるババヤガーの住む小屋は、鶏の足の上に建ち、くるくると回転します。迷い込んだ子どもをとらえて食べるこの恐ろしい魔女の姿をさまざまな芸術家が想像を巡らせて描いてきました。2002年に日本からチェコへ移住して絵本制作に取り組んでいる出久根育は、テンペラと油彩を使ってババヤガーのいる情景を描いています。小屋の土台は、白く透ける鶏の羽が円形に重ねられ、ババヤガーが操る白い鳥や糸車と呼応して、縦や横に回転する不気味な動きを想像させます。暗い色調による細密な描写は、魔法の物語の緊張感をリアルに伝えています(図1)。

図1 出久根育(日本)
『マーシャと白い鳥』(偕成社)より 2005年

こびと

物語絵本には、魔女のほかにも不思議な力を持つ存在が登場します。ヨーロッパ各地の伝承に出てくるこびとも魔法を使います。グリム童話「こびとのくつや」では、こびとたちが、貧しい靴屋の夫婦を助けて、一晩ですばらしい靴をつくります。靴屋の夫婦はお礼に彼らに服と靴を贈ります。イギリスの画家・バーナデット・ワッツは、裸で靴をつくる善良なこびとをあたたかなろうそくの光で包むように描いています(図2)。

図2 バーナデット・ワッツ(イギリス)
『こびとのくつや』(西村書店)より 1986年頃

『魔法のなべと魔法のたま』では、貧しい夫婦に繰り返し魔法の道具を授けるこびとが描かれています。出久根育も私淑するスロバキアの画家・ドゥシャン・カーライの絵筆は、まさに魔術のように、登場人物たちが重力から解き放たれたように勢ぞろいする場面を緻密に描き出しています(図3)。

図3 ドゥシャン・カーライ(スロバキア)『魔法のなべと魔法のたま』(ほるぷ出版)より 1989年

日本の昔話にも、不思議な力を操る者が登場します。鬼はその代表的な存在といえるでしょう。『だいくとおにろく』では、ずるがしこくも間抜けな鬼が、だいくと取り引きをして、あっという間に流れの早い川に立派な橋をかけます。赤羽末吉は、民衆に語り継がれ、怖れられながらも愛されてきた鬼を大津絵のようなおおらかな筆致で描きました(図4)。

図4 赤羽末吉(日本) 『だいくとおにろく』(福音館書店)より 1962年

絵本の魔術師

魔法のように、わたしたちを空想の世界へ連れ出してくれる絵本があります。チェコのアーティスト、クヴィエタ・パツォウスカーは、紙を切ったり、折ったり、貼ったり、穴をあけたり自在に扱い、物語の世界へと誘う絵本をつくりました。彼女の手にかかるとアルファベットや数もいきいきと動き出し、おしゃべりを始めます。彼女が「魔術師」とも呼ばれる由縁はその自由な造形にあります。ときには絵本を飛び出し、紙の彫刻となって現れます(図5)。

図5 クヴィエタ・パツォウスカー(チェコ)
数の物語 1990年

ノンセンスの魔法

ノンセンスの魔法で非日常の世界へ旅に出てみませんか。よく知られているノンセンスの物語に「不思議の国のアリス」があります。クロアチアの画家、アンドレア・ペトルリック・フセイノビッチは、奇妙な世界に迷い込んだ少女・アリスをコントラストの強い色面と歪んだ空間のなかにとらえています(図6)。

図6 アンドレア・ペトルリック・フセイノヴィッチ(クロアチア)
『不思議の国のアリス』より 2002年

日本を代表するノンセンス絵本の魔術師といえば、長新太です。『まねっこねこちゃん』では、どんなものにも変身できる不思議な猫が登場します。鮮やかな色彩とたっぷりとした筆致は、見る人を生理的な快さとともに、子どもの空想の世界へ解き放ちます(図7)。

図7 長新太(日本)『まねっこねこちゃん』(文溪堂)より 1996年

日の出前や日没後のわずかな時間に、空が美しく彩られる時間は、「マジックアワー」とも呼ばれます。場面で展開する絵本にもマジックアワーを見事にとらえている作品があります。谷内こうたの『なつのあさ』では、早朝から夜更けまで、日の光の変化に応じて、少年の空想の世界が美しく展開します。

 

展覧会の見どころ

①魔法つかいたち

魔法、それは人の力を超えた不思議なことを行う術。古くから世界中で語られてきた魔法にまつわる伝承がもとになり、子どもの本に登場する魔物のイメージがつくられました。子どもをつかまえるおそろしい魔女、ずるがしこい鬼、働き者のこびと、人とは異なるその姿にどきどき、はらはら、わくわくすることでしょう。

スタシス・エイドリゲヴィチュス(ポーランド)『いくつかの魔法のお話』より 1988年

②絵本の魔法

絵 本 の 世 界 は 変 幻 自 在。1・2・3……のびたり、ちぢんだり、変身だってできます。ページをめくれば、不思議な時間が流れだし、魔法のように美しい光景が現れます。

谷内こうた 雲にかかる線路と少年『なつのあさ』(至光社)より 1970年(ちひろ美術館寄託)

谷内こうた 『なつのあさ』(至光社)より 1969年

エリック・カール(アメリカ)『イソップの12の物語』習作 1991年
Eric Carle, Bat. Study for Twelve Tales from Aesop. Collection of The Chihiro Art Museum. ©1991 by Penguin Random House LLC.

②魔法の道具

魔法にまつわる物語には不思議な道具が出てくることもあります。魔法の道具を手に入れたら、どんな魔法が使えるでしょうか。

エロール・ル・カイン(イギリス) 『アラジンと魔法のランプ』(ほるぷ出版)表紙(部分) 1981年