いわさきちひろ ゆびきりをする子ども 1966年

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子どもの心を見つめて いわさきちひろ展

ちひろが描いた数多くの子どもの絵には、ときを経ても変わることのない尊いいのちそのものがとらえられています。本展ではちひろが見つめた子どもの心と、絵に托した想いを探ります。

いわさきちひろ ゆびきりをする子ども 1966年

いのちを育みながら

1947年、疎開先の長野県松本市から単身で上京したちひろは画家を志して絵の研鑽に励みました。1950年に結婚し、翌年には、息子が生まれます。駆け出しの画家だったちひろにとって、仕事と育児の両立は容易ではありませんでしたが、最愛の息子の成長を見守るなかで、その筆致は飛躍的にのびやかになっていきます。ちひろが、息子やその友だちに話しかけるようにして描いた子どもの絵には、現実の子どもへの共感があらわれています。1950年代後半以降、ちひろは子ども向けの雑誌や本を舞台に活躍の場を広げていきました。
画家として多忙を極めるようになってからも、絵の子どもに語りかけながら描くスタイルは変わりませんでした。1971年に社会科の副読本を手がけた際、編集者の目前で「この子は絶対に落っこちるわよ。見ててごらんなさい」と語りながら、子どもたちがのぼり棒をする場面を描いたといいます。ちひろ自身の内側には、子ども時代の感性も息づいていたのかもしれません。

いわさきちひろ のぼり棒 1971年

絵本に描かれた子どもの心

あかちゃん絵本『おふろでちゃぷちゃぷ』も、ちひろが、あかちゃんのことばをひとりごとのようにつぶやきながら描いたといわれています。観察力とデッサン力に加え、息子を育てた実感を込めて描いたあかちゃんの姿は、世代を超えて賛同を得て、刊行から50年を経た現在、200万部を超えるベストセラーとなっています。

平和な光景のなかにいる子どもを描き続けたちひろが、晩年、いのちをかけて取り組んだのが絵本『戦火のなかの子どもたち』です。ちひろは自身の戦争体験をもとに、戦場にいる子どもたちに想いを寄せ、その傷ついた心を描きました。あとがきに、次のように記しています。「戦火のなかでこどもたちがどうしているのか、どうなってしまうのかよくわかるのです。こどもは、そのあどけない瞳やくちびるやその心までが、世界じゅうみんなおんなじだからなんです。」
最後まで子どもを慈しみ続けたちひろの声は今も切実に響きます。

はだかんぼ『おふろでちゃぷちゃぷ』(童心社)より 1970年

シクラメンの花のなかの少女『戦火のなかの子どもたち』(岩崎書店) 1973年