クラウディア・レニャッツィ(アルゼンチン)『わたしの家』より 2001年

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【開館20周年記念 Ⅱ】ちひろ美術館コレクション

子どもの世界・世界の子ども

絵本画家たちは、自分の子どものころの記憶をもとにしたり、さまざまな状況に生きる子どもたちの心に寄り添ったりしながら、作品のなかに「子ども」を描き出しています。本展では、「子ども」をテーマにコレクション作品を展示し、世界の絵本画家たちが子どもをどのようにとらえ、描いてきたのかを紹介します。

世界の子どもたち

『ぼくのうちはゲル』には、組み立て式の家・ゲルや、デールと呼ばれる民族衣装など、モンゴルの遊牧民の伝統的な暮らしが、鮮やかな色彩のなかに描かれています。主人公のジルが、昔から続く生活のなかで、家族や家畜、四季の移り変わりと密接に関わりながら成長していく姿には、発展を続ける母国で、「自然を愛して暮らすのが一番大切」という画家の思いが込められています。

ボロルマー・バーサンスレン(モンゴル)『ぼくのうちはゲル』(石風社)より 2004年

四国・高知市の追手筋で行われる日曜市のようすを克明に描いた『にちよういち』。主人公のあつこは祖母とともに市を訪れます。通りの左右には露店が軒を連ね、大人たちは買い物に勤しみ、楽しんでいます。一人一人の表情や仕草を観察し丹念に描いたこの作品からは、たくさんの人々の存在が、同じ時に追手筋に集まって交差することで、この日の日曜市が成り立っていることが伝わってきます。作品のなかには、冷やし飴を飲んだり、丘やどかりの桶を覗き込んだり、母親の背で眠ったり……、日曜市を舞台に、思い思いに夏の一日を過ごす日本の子どもたちの姿を見ることができます。

西村繁男『にちよういち』(童心社)より 1979年

子どもの心

『わたしの家』は、小さな家が世界を旅する物語。布や糸、葉やパスタなど、さまざまな素材を画面に貼り、家の旅を描いています。クラウディア・レニャッツィは、軍事クーデターが頻発し、不安定な政治情勢が続くアルゼンチンで少女時代を過ごしました。軍による厳しい規制に抑圧されるなかで、心に深い傷を負った彼女を支えたのは、想像し描くことの自由としあわせでした。子どものころの体験や心情をもとに描いたこの絵本には、「家は心の象徴。誰も心にある思いを侵略することはできない」という思いが込められています。

クラウディア・レニャッツィ(アルゼンチン)『わたしの家』より 2001年

『となりのせきのますだくん』は子どもたちに絶大な人気を誇る一冊。いつも意地悪をしてくる隣りの席のますだくんが、みほちゃんには怪獣に見えます。
画家の子ども時代も主人公同様、「内気で、隣りの席の男の子にビクビクしちゃうような女の子」だったといいます。漫画のコマ割りを用いたユニークな構成で、自らの経験をもとに、不安や心の揺れ動きなど、子どもの繊細な気持ちを描いたこの作品は、世代を超えた共感を生み、子どもたちの心をとらえ続けています。

武田美穂 『となりのせきのますだくん』(ポプラ社)より 1991年

社会のなかの子どもたち

国や時代により、子どもたちを取り巻く社会の状況はさまざまです。
『またいとこ』は、谷を挟んだ二つの町に住むまたいとこ同士が決闘をすることになる物語です。周囲の圧力により、殴り合いの喧嘩をすることになるふたりのまたいとこの姿には、朝鮮戦争の歴史が重ねられています。この物語からは、子どもが生まれる場所を選べない現実と、社会が子どもたちの生活と人生に多大な影響を与えることがわかります。

パク・チョルミン(韓国)『またいとこ』より 2003-2004年

『ふしぎなともだち』は、今回が初出展となる作品です。淡路島に移り住んだ画家・田島征彦は、障害を持った児童が、特別学級ではなく普通学級で学ぶ教育を進めてきた元校長から、自閉症を持つ青年がメール便の配達をしていることを聞きました。「海と段々畑の美しい風景をバックに、彼らの仕事ぶりを絵本にしたい」との思いを抱いたことから、この絵本が生まれました。実話を元に、自閉症のやっくんが、時に偏見に直面しながらも、周囲の人々と深く関わりながら、学校や社会のなかで成長していく姿が描かれています。

田島征彦『ふしぎなともだち』(くもん出版)より 2014年

絵本には、各地域の社会や環境、文化、歴史などとともに、画家たちが自らの経験や人生を通して願った、今と未来を生きる子どもたちへの思いが映しこまれています。世界の画家たちが描いた「子ども」をご覧ください。