ねこの絵本

安曇野ちひろ美術館では、現在
ねこの画家 安泰展、および、ちひろ美術館コレクション展 ねこ・ねこ・ねこ
を開催中です。 [2019年3月1日(金)~2019年5月13日(月) ]
展覧会にちなみ、「ねこ」をテーマにした絵本を、たくさんあるなかから何冊か集めました。

『どこからきたの こねこのぴーた』

与田凖一・文 安泰・絵
出版社:童心社
出版年:1966年

好奇心旺盛な子ねこのぴーたは、なんにでも興味津々。飛んできたハエや、土のなかのモグラ、畑にいたがまがえる……。ぴーたは知らないものに出会うたび、お母さんに知らせにいきます。お母さんに見守られながら、さまざまな体験を経て成長していく子ねこの姿を描いた絵本です。
動物画の名手・安泰(やすたい)が、なかでも得意としたのがねこでした。子ねこを飼って観察し、デッサンを重ねて、リアルなねこのかわいらしさを描き出しています。ねこを愛してやまない画家の思いがほのぼのと伝わってきます。

 

『キスなんてだいきらい』

トミー・ウンゲラー・作 矢川澄子・訳
出版社:文化出版局 (現在、絶版)
出版年:1974年

子ねこのパイパー・ポーは、いたずら好きで生意気ざかり。いつまでも子ども扱いして、「パイちゃん」「ぼうや」と呼んでは何かと世話を焼くお母さんのことが、うとましくてしかたありません。その極めつけがキス。おはようのキス、おやすみなさいのキス、ありがとうのキス、キスしてよのキス……。ある日、ケンカで怪我をした息子を心配するあまり、人目も気にせず抱きしめてキスし続けるお母さんに、パイパーはたまらず「キス。なんでもキス。いやなんだ。きらいなんだ。」と言い放ちます。ウンゲラーは、反抗期を迎えた子どもの心理と親子の葛藤を、シニカルでありながら、あたたかなユーモアも感じられる画風で表現しています。鉛筆で丹念に描かれた画面の細部には、風刺漫画でも活躍したウンゲラーのいたずら心が垣間見えます。ねこの主食はなんでしょう?料理の腕をふるうお母さんの調理器具にも注目です。
1931年フランス生まれのウンゲラーは56年に渡米、代表的な絵本に『すてきな三にんぐみ』などがあり、98年には長年の功績に対して「国際アンデルセン賞」を受賞しています。今年2月に87歳で逝去しましたが、ユーモアにあふれた彼の絵本は、これからも世界中の子どもたちに愛され続けることでしょう。

 

『こねこのおひげちゃん』

マルシャーク・文 レーベデフ・絵 うちだりさこ・訳
出版社:岩波書店
出版年:1981年

4歳の女の子がかいがいしくこねこのお世話をしています。「さ、いい子ちゃん しいてあげるわ ふわふわ はねぶとんよ……」やんちゃなこねこに手を焼きながらも、女の子が愛情をかけて世話をする様子が、やさしいことばとともにテンポよく描かれています。
この絵本の初版は1928年です(表紙の絵は初版と異なります)。画家のレーベデフと詩人のマルシャークは、ロシア革命後、新たな時代を担う子どもたちのために革新的な絵本づくりに取り組みました。レーベデフは、ロシア構成主義の潮流を反映した単純化した色と形による力強い作風で知られていますが、この絵本では、輪郭線をぼかしたやわらかいタッチとやさしい色合いの絵で女の子とこねこの情愛を表現しています。彼らが手がけた絵本はヨーロッパの絵本に影響を与え、現代絵本の礎となり、今も読み継がれています。

 

『えのすきな ねこさん』

にしまきかやこ・さく
出版社:童心社
出版年:1986年

絵を描くのが大好きなねこさん。うさぎ、きつね、さるたちに「絵なんてなんの役にも立たない」といわれながらも朝から晩まで絵を描き続けます。ある雨の日、退屈しのぎにねこの絵を見ようとアトリエを訪ねた3匹は、絵を眺めてうなずいたり、首をかしげたり、感想をいったり……。さらに、ねこが「さるさんと きつねさんと うさぎさんの えも あるんだよ」といって絵を出すと、みんなは自分が描かれた絵を見てびっくり。アトリエは笑いにつつまれます。
この絵本には、画家だった父親と、同じ道を歩んだ西巻自身の姿が投影されています。「ねこ」は父親であり、自分でもあるのでしょう。おおらかな筆使いが特徴の西巻の絵。そのなかに登場するねこが描く絵は、父親が好んだジョアン・ミロの絵をもとにポップな色彩で表現されています。絵本のなかで二人の人生と感性が重なっています。
好きなことを貫くねこと、絵を見る楽しさに触れた3匹の姿を通して、自由に描くことの大切さ、そして、芸術の存在意義を感じることができます。

 

『ブラウンさんのネコ』

スラウォミール・ウォルスキー・作 ヨゼフ・ウィルコン・絵 いずみちほこ・訳
出版社:セーラー出版 (現 らんか社)
出版年:1988年

ちっちゃなしましまネコがやってきて、ブラウンさんと暮らし始めます。とらと名付けられたやんちゃな子ネコは食欲旺盛。どんどん、どんどん、大きくなっていき、ブラウンさんはある日、本当のトラだと気づきます。とても家じゃあ飼えないと、動物園やサーカスにあずけますが、とらはブラウンさんのそばが大好き。そしてラストシーンに読者はアッと驚き、愉快で暖かい心持に満たされます。青い色紙にパステルを重ねたやわらかな色調で、美しい月明かりや夜の風景を描き、そのなかで輝くとらの金色の毛並みの質感までを繊細に表現しています。ポーランドの絵本画家ヴィルコンは親日家でも知られ、日本で紹介されている絵本は100冊以上。絵本のみならず、木片や金属を用いた動物や魚などの立体作品も手がけ、ユーモラスでウィットのきいたその作風は多くのファンに親しまれています。

 

『ねこ さんびき』

アン・ブルイヤール・作
出版社:すえもりブックス (現在、絶版)
出版年:2000年

3匹の白黒ねこが、木の枝に座っています。どうやら水のなかを泳いでいる、3匹の赤い魚をねらっているよう。とうとう1匹のねこが飛び込みますが、なかなか浮かんできません。たまらず残りの2匹も飛び込みますが……。
かわいいだけでなく、ふてぶてしい表情のねこたちや、ぬるぬるとした質感がつたわるような魚たちが、シンプルながらリアルに描かれています。文字のない、絵だけで進むストーリーは、スピード感のある場面展開によって、読者を意外なラストまでテンポよく導いてくれます。最後のシーンで、クスッと笑えるか、ゾクリとするか、あなたはどちらでしょう?

 

『いつか帰りたい ぼくのふるさと 福島第一原発20キロ圏内から来たねこ』

大塚敦子・写真/文
出版社:小学館
出版年:2012年

ちょっと大柄で右目は見えない年寄りねこのキティ。3世代7人家族とともに、福島県双葉郡に住んでいました。ところが、2011年3月11日の福島第一原発の事故で家族はどこかにいなくなってしまいます。とり残されたペットを救うために福島にやってきた人たちを介し、東京で新しい家族の元で暮らし始めるキティ。ある日、仙台に避難した昔の家族と再会を果たします。「原発事故がなければ、ぼくはいまも、みんなといっしょに大熊町でくらしていた。きっといまも、田畑をのびのびかけまわっていた。畑仕事をするおばあさんのそばで。」キティの言葉と写真の数々から、目に見えない放射能が自然、動物、人を変えてしまったことが、静かに伝わってきます。福島のことを知り、忘れないために多くの人に読んでほしい一冊です。

 

『ねこ いると いいなあ』

さのようこ・さく/え
出版社:講談社(初版小峰書店、1990年)
出版年:2016年

主人公はねこを飼いたい女の子。でもお母さんは「100万回」お願いしても、許してくれません。「ねこ いると いいなあ」と女の子がつぶやくたびに、どこからか「ニャー」とねこの声が聞こえてきます。
画用紙に1匹、2匹、3匹…とねこを描くと、どんどんねこが増えていき、しまいには部屋中がねこだらけに。けんかをしたり、かみついたり、あかちゃんを産んだりと、ねこたちは全く思い通りになりません。女の子は、外へ飛び出し、泣きながらお母さんのもとへ走ります。
クレヨンをこすって伸ばしたような荒いタッチが特徴的な本作。黄色や赤など、少ない色数ながら、混ざり合い、溶け合う複雑な色彩は、女の子の期待と不安が入り混じった感情に呼応しています。また、余白が生み出す独特の間も、物語の緊張感を高めています。
ミリオンセラーの『100万回生きたねこ』や『すーちゃんとねこ』など、佐野の作品には
ねこが数多く登場します。佐野が描く、自分勝手で、ときには憎たらしいねこたち。けれど、そんなねこたちに惹かれてしまうのは、彼らが人間の感情を代弁するかのように、思うままに振るまっているからかもしれません。本作でも、ねこたちは暴れたり、大人しくなったりと、ことば以上に女の子の心の揺れ動きを伝えています。

 

・『ごろごろにゃーん』長新太・作/画 福音館書店 1984年
・『ねことカナリア』マイケル・フォアマン・作/絵 掛川恭子・訳 佑学社 1986年
・『くろねこのかぞく』ピョートル・ウィルコン・作 ヨゼフ・ウィルコン・絵 いずみちほこ・訳 セーラー出版 1989年
・『ねこのホレイショ』エリナー・クライマー・文 ロバート・クァッケンブッシュ・絵 阿部公子・訳 こぐま社 1999年
・『こねこのポカリナ』どいかや・作/絵 偕成社 2000年
・『ゴリオとヒメちゃん』アンソニー・ブラウン・さく 久山太市・やく 評論社 2009年