魔法の絵本=絵本の魔法展の見どころ紹介② 魔法のどうぐ
ちひろ美術館・東京で開催中の「ちひろ美術館コレクション 魔法の絵本=絵本の魔法」では、ちひろ美術館のコレクション作品のなかから、「魔法」をテーマに9か国20名のアーティストの作品と資料を展示しています。その見どころを、展示担当学芸員が、全4回にわたり紹介します。
つえ、ほうき、ランプ、じゅうたん……。いずれも私たちの身の回りにある日用品ですが、共通点はわかりますか?
そうです。魔法のどうぐになることです。よく知られている物語に「アラジンと魔法のランプ」があります。賢い少年アラジンは、魔法のランプの精霊(ジン)の力で、富と地位を得て王女と結婚します。アフリカの魔法使いにランプを奪われますが、アラジンは機転を利かせて元の生活を取り戻します。魔法と人間の知恵が対比的に描かれているこの物語は、もともとの『千夜一夜物語』の写本には見られず、18世紀にフランス語版へ加えられた物語と考えられています。物語に登場する精霊や魔法使いには、イスラム世界に伝わる神秘的な信仰や伝承の影響が見られます。この物語を絵本に描いたイギリスの画家、エロール・ル・カイン(1941-1989)は、シンガポールに生まれ、幼少時をインドや東南アジアで過ごしました。ル・カインは、自身の多文化的なルーツを生かし、イスラムの細密画を思わせる植物をモチーフとしたアラベスク文様とともに香り立つ魔法の世界を見事に表しています。

エロール・ル・カイン(イギリス) 『アラジンと魔法のランプ』より 2000年

エロール・ル・カイン(イギリス)『アラジンと魔法のランプ』(習作) 2000年
絵本『魔法のなべと魔法のたま』ではタイトルの通り、魔法のどうぐとして鍋と玉が登場します。貧しい教会番のおかみさんが、めんどりとの交換で、こびとから手に入れたのは、ごちそうを出してくれる魔法の鍋でした。不注意から、鍋を失くした夫婦は、今度は、こびとから魔法の玉を手に入れます。国際アンデルセン賞受賞画家であるドゥシャン・カーライ(1948-)は、絵のなかに独自の秩序をつくり、現実の時間や空間、重量からも解き放たれた魔術的な世界を描いています。カーライの細密な超絶筆致は、見る人を魔法にかけてしまうことでしょう。見ているうちに時間の経つのも忘れてしまうかもしれません。この機会にぜひ原画を近くでじっくりとご覧ください。

ドゥシャン・カーライ(スロバキア) 『魔法のなべと魔法のたま』(ほるぷ出版)表紙 1989年
願いをかなえてくれるランプや鍋は、使い方次第で、良いことも悪いこともおこります。魔法のどうぐは、想像する楽しさとともに、人がよりよく生きるための知恵や願いを私たちに伝えているのかもしれません。
◆5/15(金)~7/20(月・祝)初夏の展覧会
いわさきちひろ「とても素朴なんだけれど たいせつなもの、それが絵本の中にはあるんです。」
ちひろ美術館コレクション 魔法の絵本=絵本の魔法
SNS Menu