谷川俊太郎が手がけた絵本

安曇野ちひろ美術館にて開催中の
いわさきちひろ生誕100年 Life展 みんな生きてる 谷川俊太郎
に関連して、谷川俊太郎氏が手がけた絵本のなかから、いくつかご紹介します。

 

『でんでんでんしゃ』

谷川俊太郎・文 スズキコージ・絵
出版社:交通新聞社
出版年:2016年

「あめなめらめるめ でんでんでんしゃ あめといっしょに ふってこーい!」と呼べば、雨樋から出てくるのはでんでん虫。それが「ぴたてんぴととん ぴとぴた ぴるん むくむく むくっ」と大きくなって、でんでん虫型電車になります。電車の前に線路はなく、這っていく跡に線路をひきながら、高い木に登ったり、虹の川を滑ったり、地下の世界に紛れ込んだり……。谷川俊太郎の言葉がつむぎだす奇抜な設定もなんのその、スズキコージが迫力ある絵で応えています。でんでんむしのぬめっとした動きを感じさせる言葉のリズムを、声に出して楽しみたい絵本です。

 

『ともだち』

谷川俊太郎・文 和田誠・絵
出版社:玉川大学出版部
出版年:2002年

「ともだち」とはなにか。谷川俊太郎がさまざまな角度から、具体的にともだちを定義していきます。「ともだちって」「ともだちなら」「ひとりでは」と章ごとにともだちについての考察を深め、「どんなきもちかな」「けんか」では相手の気持ちを想像させます。そして、会ったことのないともだちにも、思いを馳せていきます。谷川の簡潔なことばと、和田誠のシンプルであたたかな絵が響き合うこの絵本は、1979年につくられ、版を変えながら、今も読み継がれています。ともだちについて考えたり悩んだりしたときに、何度でも手に取ってほしい絵本です。

 

『もこ もこもこ』

たにかわしゅんたろう・さく もとながさだまさ・え
出版社:文研出版
出版年:1977年

表紙から裏表紙まで、画面下部の同じ位置に描かれた地平線を舞台として、不思議なかたちが生まれ、大きくなり、小さなかたちを飲み込み、再生して、はじけていきます。それぞれの形は抽象的ですが、「もこ」とか「にょき」といった擬音語とともにいきいきと動いているように見えます。前衛美術家の元永定正が手がける色と形はあたたかく、スケールの大きなユーモアをたたえています。谷川のことばとあいまって、子どもたちの身体感覚に快く響きます。抽象的な色と形と音で構成されたこの絵本は、子どもに理解できるのか、という大人の心配をよそに、刊行から40年以上経た今も、子どもたちから絶大な人気を誇るミリオンセラーの絵本となっています。

 

『せんそうしない』

たにかわしゅんたろう・ぶん えがしらみちこ・え
出版社:講談社
出版年:2015年

良く晴れた夏の日、女の子と男の子が松林を駆け抜けていく先に広がっているのは、青く輝く海と元気な子どもたちがいる平和な光景です。場面の展開に合わせて、「ちょうちょとちょうちょはせんそうしない きんぎょときんぎょもせんそうしない・・・」とテンポよくことばが続きます。それでは、戦争をするのは誰でしょうか?人間の大人です。なぜ、戦争をするのでしょうか?自分の国や子どもを守るためといいます。「せんそうすれば ころされる てきのこどもが ころされる みかたの こどもも ころされる」谷川は、平易なことばで戦争の現実を伝えます。それぞれの家庭の食卓、夜の帳が降りた後の静かな住宅街。なにげない日常の一場面と谷川のまっすぐなことばが平和の尊さを伝えます。

 

『き』

谷川俊太郎・詩 堀文子・絵 諸井誠・曲
出版社:至光社
出版年:1968年

「いっぽんの きが ある わたしの うちのにわに わたしの うまれる ずっと まえから」と始まる詩。主人公の姿は見えずとも、その声に寄り添う季節ごとの木の絵をとおして、時間の流れ、人生のうつりかわりが感じられます。画家の堀、詩人の谷川、そして作曲家の諸井という、当時先鋭の3人を起用して構成された1冊は、至光社の『もず』で初山滋の版画と詩に諸井が曲をつけた絵本同様、美しいものを子どもに、という編集者武市の考えがあらわれています。

 

『これはすいへいせん』

谷川俊太郎・文 tupera tupera・え
出版社:金の星社
出版年:2016年

表紙から何だかただならぬ気配。双眼鏡で遠くの水平線を見ると、何か小さなものが浮かんでいます。「これはすいへいせんのむこうからながれてきたいえ」家だったと分かります。「これはすいへいせんのむこうからながれてきたいえで ひるねしていたおじいさんのガブリエル」と詩は続きます。つみあげうた、というマザーグースにも見られるあそびうたの一種です。正につみあげるように、ページごとに新たな色のインデックスがつけられ、幾何学的でどことなくユーモラスな登場人物にも、tupera tuperaの凝ったグラフィックが光っています。

 

『ぴよぴよ』

谷川俊太郎・さく 堀内誠一・え
出版社:くもん出版
出版年:2009年

くもん出版が復刻した「ことばのえほん」シリーズの1作目。たまごから生まれたばかりのひよこが、初めて動物や人間に出会う冒険物語でありながら、わんわん、しゅばしゅばしゅば、とぷんなど、オノマトペ(擬音語)だけでストーリが進みます。「ことばのえほん」シリーズは、谷川俊太郎と堀内誠一によって1972年につくられましたが、その絵とことばは時代の流れを感じさせず、子どもと一緒に、声に出して楽しめる絵本です。シンプルな絵とことばのなかで、ひよこのかわいらしさと、その表情の豊かさが際立ちます。

 

『むかしむかし』

谷川俊太郎・詩 片山健・絵
出版社:イースト・プレス
出版年:2010年

むかしむかしぼくがいた―。アフリカを彷彿とさせる赤茶けた広大な大地を背景に、たった一人のぼくがいました。今と比べ足りないものは多いけれど、ぼくはたしかに、むかしむかしに生きていました。生まれ、死んでいく自分という存在は、どのように現在の自分とつながってきたのでしょう。“むかしむかしのぼく”が、“いまのぼく”へと収束するラストは、連綿と紡がれてきた命のつながりを読者に感じさせます。片山健の力強いタッチの絵が、生きていくぼくのたくましさを表しています。

 

『生きる』

谷川俊太郎・詩 岡本よしろう・絵
出版社:福音館書店
出版年:2013年

「人が生きる」という壮大なテーマが、「生きているということ いま生きているということ それは」のフレーズをくりかえしからなる谷川俊太郎の詩と、緻密でリアルな岡本よしろうの絵で語られています。「木漏れ日がまぶしいということ」「泣けるということ 笑えるということ」「あなたの手のぬくみ いのちということ」とつづられる詩とともに、セミの死骸のクローズアップから始まり、ある家族の夏の一日を追いながら、宇宙から見た地球の姿へとつながる場面が展開されます。「今」という時間のはかなさと永遠性、そして、何気ない日常の積みかさねこそが、生きることそのものであることに気づかせてくれる絵本です。

 

『ことばあそびうた』

谷川俊太郎・詩 瀬川康男・絵
出版社:福音館書店 
出版年:1973年

「かっぱ」「ののはな」「うそつききつつき」「十ぴきのねずみ」など、谷川俊太郎の15編の詩と、瀬川康男が絵でつづられた絵本です。「かっぱかっぱらった かっぱらっぱかっぱらった とってちってた……」、韻を踏んだことばとリズムが織りなすコミカルな詩、愛嬌あふれる動物の描写と美しい装飾が光る罫線、ふたりの個性と感性が結実した一冊となっています。