『ますだくんとまいごのみほちゃん』書影

武田美穂の絵本

ちひろ美術館・東京では、現在「武田美穂展 絵本づくりはドキドキなのだ!」を開催中です(~2026年10月25日)。
武田美穂の手がけた絵本のなかから、当館で原画を展示中の絵本をご紹介します。

 

『ますだくんとまいごのみほちゃん』書影

『ますだくんとまいごのみほちゃん』

武田美穂・作/絵
出版社:ポプラ社
出版年:1997年

武田美穂の代表作『となりのせきのますだくん』シリーズ5冊目の絵本です。みほちゃんと友だちのようこちゃんは、同級生のますだくんが飼っている犬をいっしょに見に行きます。子犬を飼いたくなったようこちゃんは、反対するお母さんを説得するために家出を決意。みほちゃんも協力し、ふたりは遠くの公園へ向かいます。その後、みほちゃんはいったん帰宅しますが、雨が降り出したことに気づくと、ようこちゃんに傘を届けに、ふたたび外へ飛び出します。ところが、そのまま夜の街で迷子になってしまいました。はたして、ふたりは無事に再会できるのでしょうか?
本作は、「放浪癖のある子だった」という作者の幼いころの体験をもとに描かれました。友だちに頼られるうれしさ、親との約束を破った後ろめたさ、迷子になったときの心細さなど、子どもが成長するなかで感じる複雑な感情が丁寧に描かれています。特に印象的なのは、雨に濡れた夕暮れの街の描写です。家々に明かりが灯り、少しずつ夜になっていく街の美しさが描かれる一方で、見慣れた場所が夜になると急に知らない場所のように感じられる怖さも伝わってきます。みほちゃんに感情移入しながら読み進めていくうちに、自分の子ども時代を思い出す人も多いでしょう。友だちを想う子どもたちの優しさと、成長していく姿に心があたたかくなる一冊です。

 

『オムライス ヘイ!』書影

『オムライス ヘイ!』

武田美穂・作
出版社:ほるぷ出版
出版年:2012年

料理や、食べ物が登場する絵本はいろいろあります。ホットケーキ、パン、ラーメンなどなど。どれも、読む人のなかにある人間としての食への憧れをくすぐります。
武田美穂の絵本で、料理がテーマになったのは、これが3作目。「単純な題材だからこそ、絵本の原点である、めくり、リズム・盛り上がりをわかりやすく見せられるんじゃないかと思った」という彼女の言葉どおり、料理と絵本のすてきなコンビネーションが展開します。
『ハンバーグ ハンバーグ』(2009年)、『パパカレー』(2011年)と、スタンダードなメニューが続き、つぎはオムライスか、なるほど、と思いきや、タイトルが『オムライス ヘイ!』と、ノリがよく、ケチャップを連想させる題字とともに、期待が高まります。この本の読み聞かせではスピードが求められ、ラッパーになった気分で、ヘイ!とページをめくるうちに、卵が固まっていき、フライパンのなかで裏返しにされ、卵の黄色の色がまぶしく光ります。写真ではなく、実際に何度も料理して観察して、描いたという画面を、見ながら思わず叫びます。「てんさいだ!」

 

えほん宮沢賢治ワールド『やまなし』書影

『やまなし』

宮沢賢治・原作 武田美穂・絵と構成
出版社:理論社
出版年:2024年

「クラムボンはかぷかぷわらったよ」というフレーズを、教科書などで目にしたことのある人も多いでしょう。これは、このおはなしに登場する、かにの子どもたちのおしゃべりです。2匹の兄弟かには、小さな谷川の底から、水の天井をつぶつぶ泡が流れていくのを眺めていました。かにたちのまなざしを通して、5月と12月の、ふたつのおはなしが語られます。
5月、かにたちの上には日の光が降り注ぎます。魚の影が静かにゆっくり滑っていったその時、突然何かが飛び込んできます。12月には、月の光が差す静かな水中に、再び何かが飛び込んでくるのでした。

宮沢賢治の名作を、武田美穂が親しみやすく再構成した「えほん宮沢賢治ワールド」シリーズの5冊目。童話をもとにしたこの絵本では、かぷかぷ、とぷん、と、ふしぎな響きのことばとともに、水と光がつくりだす幻想的な世界を目で楽しむことができます。かにたちの踊るような足取りや、流れの勢い、冬の澄んだ水の冷たさが、絵本ならではの表現で伝わってきます。

 

『ねんどの神さま』書影

『ねんどの神さま』

那須正幹・作 武田美穂・絵
出版社:ポプラ社
出版年:1992年

戦争で両親を亡くした少年・大迫健一は、疎開先の学校で、ねんどで「戦争犯罪人をこらしめる神さま」をつくりました。50年後、閉校した学校の倉庫に転がっていたねんど細工は、突然巨大化し、歩き出します。向かうのは、成長し、兵器会社の社長になっていた健一のもとでした……。
戦争は、どうしてなくならないのか。だれもが平和を望んでいるはずなのに、なぜ兵器をつくるのか。児童文学としては異色の「核抑止論」へと傾いていく物語に、武田は、手元にあったあらゆる画材を用いて、それまでの画風とは異なる重厚なタッチで向き合いました。
那須は、3歳のときに広島で被爆しました。それから47年後に書かれた本作のとびらには、下記のことばが記されています。戦後81年となる2026年、この物語は、さらに重みを増すように感じられます。
1945年8月——。わたしたちは、どんなにか傷つき、どんなにか血の涙をながし、どんなにか戦争を憎んだことでしょう。あれから、五十年。あれほどの憤りは、どこへいったのでしょうか……。

 

『やくそく ぼくらはぜったい戦争しない』書影

『やくそく ぼくらはぜったい戦争しない』

那須正幹・作 武田美穂・絵
出版社:ポプラ社
出版年:2025年

中学生のトオルは、毎朝、学校へ行くときに、「にいちゃん、いってらっしゃい」と、自分を原爆で亡くなった兄と間違えている祖母に戸惑います。死んだ人に間違われるなんて、と思う一方で、「にいちゃん、おかえり!」と迎えてくれる祖母の笑顔に、「ぼくらはぜったい戦争なんかしない」と決意します。
この作品は、那須が広島の被爆70年にあわせて書いた合唱曲の歌詞のひとつ「ばあちゃんの詩」をもとにつくられた絵本です。那須の没後、未発表の遺作として注目を集めていたこの物語を形にするにあたり、『ねんどの神さま』でコンビを組み、生前親交が深かった武田に絵が依頼されました。武田は、『ねんどの神さま』とは異なる、子どもも親しみやすい武田らしい画風でこの絵本に取り組みました。1945年と現在を行き来する物語を、過去をセピアで、現在をカラーで描き分けています。
絵本の末尾には、那須と武田のことばが掲載されています。これからの40年間、日本が平和でいられるかは、「きみたち一人ひとりが、戦争を体験した世代とおなじように、いや、もっと強力に、「戦争は絶対にいやだ」と大きな声で叫びつづけることだと思う。」という那須のことばに対し、「那須さんが期限をきった40年後の2030年に「那須さーん、いま、世界は平和です」と言いたいですね。あと5年しかないから、いそがないと。」と武田は結んでいます。

・『となりのせきのますだくん』武田美穂・作/絵 ポプラ社 1991年
・『ますだくんのランドセル』武田美穂・作/絵 ポプラ社 1995年
・『こわいドン』武田美穂・作/絵 2003年/2014年 理論社/ポプラ社
・『おかあさん、げんきですか。』後藤竜二・作 武田美穂・絵 ポプラ社 2006年
・『なぞなぞフッフッフー』武田美穂・作/絵 ほるぷ出版 2014年
・『しんけんしょうぶ だるまさんがころんだ』武田美穂・作/絵 ほるぷ出版 2016年
・『あ・さ・ご・は・ん!』武田美穂・作/絵 ほるぷ出版 2021年
・『ちゅうもんのおおいりょうりてん』宮沢賢治・原作 武田美穂・絵と構成 理論社 2022年
・『どんぐりとやまねこ』宮沢賢治・原作 武田美穂・絵と構成 理論社 2023年
・『ぎんがてつどうのよる』宮沢賢治・原作 武田美穂・絵と構成 理論社 2023年
・『まるがかけたら』武田美穂・作/絵 理論社 2025年