雨の日 晴れの日の絵本

安曇野ちひろ美術館では、現在
ちひろ 雨の日 晴れの日
を開催中です。 [2022年6月4日(土)~9月4日(日) ]

展覧会にあわせて、「雨の日 晴れの日の絵本をご紹介します。

『雨、あめ』

ピーター・スピアー・作
出版社:評論社
出版年:1984年(アメリカ版 1982年)

姉と弟が庭で遊んでいると雨が降ってきます。雨足が強くなり、ふたりは一旦、家のなかへ逃げ込みますが、レインコートにレインハット、長靴を身に着け、再び、戸外へ飛び出します。家の樋から滝のように落ちる雨水を逆さにした傘で受け止めてみたり、排水溝に勢いよく流れ込む水のなかに立ってみたり、思い切りしぶきをあげて雨水と戯れます。蜘蛛の巣に水滴がついていたり、水たまりが鏡のようにふたりを映し出したり、松の葉を揺らすと水玉が落ちてきたり、いつもの見慣れた景色も雨が降ると違って見えます。雨は夜半まで降り続きますが、翌朝にはすっかり晴れ、雨に洗われた庭はさらに輝いて見えます。
文字がないこの絵本では、晴れた庭の景色が表見返しと裏見返しに描かれていて、その間にさまざまな雨の情景や、ふたりが帰宅してからの家のなかのようすが描かれています。線描と水彩を巧みに用いた絵は、文字がなくても饒舌に時間の経過とともに変化する場面を語ってくれます。線で表現された雨や、地面いっぱいに広がる雨紋、シルエットで表現された背景などは、歌川広重の雨を描いた浮世絵から着想を得ているのかもしれません。すべてが克明に見える晴れた日とは対照的な、雨ならではの情趣が感じられます。

 

『はれのひのおはなし』

かこさとし・作
出版社:小峰書店
出版年:1997年

おひさまがにっこにこの晴れの日、さあちゃんとゆうちゃんはかくれんぼをしています。そこへ、うさぎさんやきつねくん、くまどんが加わり、みんなで一緒に乗り物ごっこを始めます。
1997年から1998年に出版された絵本シリーズのなかの1冊です。雨の日にお母さんを迎えに行く『あめのひのはなし』や、雪合戦を楽しむ『ゆきのひのはなし』、風車を回す『かぜのひのはなし』など、移り変わる天候のもとで、動物たちとともにのびのびと遊ぶさあちゃんとゆうちゃんの姿が親しみやすいタッチで描かれています。
福井県で生まれ、幼少期を北陸で過ごした加古里子は、「本などはほとんどない家だったのですが、近所には野原や川、土手があって、トンボやホタルなどがいてとてもいい友達になるし、雪の中で思う存分遊んだりもしました。その貴重な時間、今でも感謝していてね。そういうのは成長期には必要不可欠だと思います」と語っています。昔懐かしい遊びの情景からは、「未来を担う子どもたちに、賢く健やかな人になってほしい」という画家の思いが感じられます。

 

『くもの日記ちょう』

長新太・作
出版社:ビリケン出版
出版年:2000年

夏休みの宿題の定番といえば絵日記ですが、もし空に浮かぶ白いくもが日記を書いたらどんな話になるでしょう?
「ぼくは、くもだぞ!くもをつかむような日記のはじまりだ。もくもく、もくもく、いきていくぞ!」
主人公の「くも」は、ある雪の日に雪だるまを見つけ、近づいてみます。ある日は、海の上で昼寝をして、ある日は入道雲になって雷を落とし、ハワイの上ではアロハシャツを着てみたり……。くもは、何にも縛られることなく世界中を旅して、辿り着いた先で自在に形を変えていきます。流氷やカイツブリの形を真似たり、海のなかに溶けてマンボウと話をしたり、かき氷のなかに入ってみたりと、表情のないくもですが、おどけた仕草や好奇心旺盛なようすから、愛らしい性格が伝わってきます。
場所や季節は移り変わり、1年をとおして、くもの一生が描かれます。中表紙には雲のない青い空が描かれ、主人公のくもが生まれる前の空であることが想像されます。ラストシーンの地球を離れるくもの構図は、中表紙と対になっており、消えては生まれる雲の循環のように、物語もループします。
空に漂う雲の一生が、作者のユニークな視点で語られる一冊です。

 

『やまださんちのてんきよほう』

長谷川義史・作
出版社:出版文化産業振興財団「この本読んで!」(2004年春号)より
出版年:2004年
(加筆ハードカバー版:絵本館 2005年)

絵本と読み聞かせの情報誌「この本読んで!」に描きおろされたオリジナル絵本。
長谷川の大胆なタッチと色彩で、やまだ家の何気ない一日を天気であらわす、ユーモアあふれる一冊です。一日のうちに、はれもあれば、こうずい、なだれ、かみなりも……。テンポよく、お話が展開していきます。
男の子のおねしょは、「こうずい」、布団のおねしょのあとが雲の形で、おねしょして晴れない男の子の気持ちは、まさに「くもり」。押し入れからは、おもちゃの「なだれ」が……。それを見たお母さんの気持ちは、さてどんな天気でしょうか?
そのほかにも、気象用語のしゃれや、やまだ家以外の登場人物にも注目してみてください。細かいところまで、作者の遊び心があふれる、何気ない日常が楽しく、元気になる絵本です。

 

『あるはれたひに』(大型版)

きむらゆういち・作/あべ弘士・絵
出版社:講談社
出版年:2001年

同じ作者と画家のコンビでつくられた、よく知られている絵本『あらしのよるに』の続編ですが、もちろんこの1冊だけでも充分に楽しめます。天気はあくまでも舞台設定で、主人公はオオカミとヤギ、という、本来であれば、食うと食われるという関係の二匹。しかし二匹はなんと笑いながら昨夜の嵐の夜のできごとを思い出して話しつつ、いっしょにお弁当を食べようと山を登っているではないですか。その道の途中でオオカミは、自分のお弁当を谷底に落としてしまいます。強がりを言うオオカミですが、少しおなかがすいてきました……。絶妙な会話と力のぬけたような線で描かれた絵の組み合わせが、このシリーズの人気の秘訣を物語っています。

 

『あめかっぱ』

むらかみ さおり・作
出版社:偕成社
出版年:2020年

朝からずーっと雨が降っている日。ピンポーンと玄関のベルが鳴り、なおちゃんがドアを開けると、そこには緑色のかっぱが!「かっぱさんと おるすばんしててね。きっと すごーく たのしいから、いいこでね」お母さんが出かけてしまうと、かっぱがなおちゃんに声をかけました。「なおちゃん、きょうは ピクニックびよりですよ」「あめなのに?」「あめだから!」

かっぱと出かける雨の日のピクニックは、少し不思議で、楽しいことばかり。林の奥の「かっぱどおり」でおやつのきゅうりやふきのかさを買ったり、雨がたくさん降らないとたどりつけない場所で遊んだり‥‥‥。「あめのひに みんなで あまやどり。これ、さいこうの ぜいたくです」かっぱのことばに、なおちゃんはうなずきます。

北海道の自然豊かな環境で育った作者のデビュー作。かっぱと進む林のなかは、草の一本一本、葉の一枚一枚まで精緻に描きこまれています。雨に濡れた植物の緑は、主人公の少女の装いに補色の赤色を使うことで印象的に描かれ、ページをめくるたび、深呼吸したくなる森の香りが感じられるようです。退屈な雨の日におすすめの絵本です。