「あそぶ」絵本

絵本画家・いわさきちひろの没後50年となる2024年。この 1 年間、ちひろ美術館(東京・安曇野)では、「あそび」「自然」「平和」の3つのテーマで、現代の科学の視点も交えてちひろの絵を読み解きます。

今回のテーマブックスでは、「いわさきちひろ ぼつご 50 ねん こどものみなさまへ あ・そ・ぼ」にあわせて、「あそび」をテーマにした絵本をご紹介します。

◆いわさきちひろ ぼつご 50 ねん こどものみなさまへ あ・そ・ぼ
2024年6月22日(金)~10月6日(日):ちひろ美術館・東京
2024年3月1日(金)~6月2日(日):安曇野ちひろ美術館

 

『おおきなおおきなおいも』

市村 久子・原案  赤羽末吉・さく/え
出版社:福音館書店
出版年:1972年

あおぞらようちえんでは、子どもたちが楽しみにしていたいもほり遠足が、雨で延期になってしまいました。つまんない! でも大丈夫。おいもは、ひとつ寝ると むくっ ふたつ寝ると むくっ むくっ と大きくなって、みんなを待っているはず。おいもは、どのくらい大きくなっているかしら? 子どもたちはおいもの絵を描き始めます……。
当時、絵本画家として10年目を迎えた赤羽末吉は、それまで手がけてきた昔話絵本とはまったく異なる画風で、自作絵本『おおきなおおきなおいも』に取り組みました。雨降りのため延期になったいもほり遠足を嘆く園児たちが、おいもの生長を空想し、模造紙8枚におよぶ巨大なさつまいもの絵を描いたという、幼稚園での実体験がもとになっています。赤羽は園児たちの話を聞いた際、「子どものすばらしい想像力がスピーディに展開すること、そしてきわめて視覚的であり、変化に富んでいることで、私はただちに絵本化を思いたった*」といいます。赤羽が最もこだわった、大きなおいもが登場する場面は、ページをめくることで味わえる絵本独自のおもしろさがあります。ペンの自由な描線とテンポのよいことばで、子どもの想像力をさらに飛躍発展させたこの絵本は、50年以上にわたり、多くの子どもたちの心をとらえてきました。
*赤羽末吉『絵本よもやま話』(偕成社)1979年

 

『こぶたのABC』

アーサー・ガイサート・作 うめもと のりこ・訳
出版社:ジー・シー・プレス
出版年:1989年 (絶版)

遊びをテーマにした絵本は色々ありますが、この本は、遊びが何層にもなっています。まずは、こぶたを探しましょう。この絵本では7匹のこぶたたちが、木の家を建てるまでのお話が語られます。それぞれのページの絵に必ず7匹いるのですが、これが難しい。モノクロの銅版画の絵に、目を凝らさないといけません。次はアルファベット探し。AからZまで絵のなかにアルファベットが隠れています。5つずつある該当のアルファベットに加え、前後のアルファベットもひとつずつ。もう気がおかしくなりそう。そんなときは、探すのを忘れ、こぶたたちの気もちになってみましょう。仕事をしたり、遊んだり。最後はZ「zzzグーグーいびき あしたはなにしてあそぼうか」
銅版画(エッチング)の名手ガイサートによる、ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞受賞作。

 

『まよなかごっこ』

クヴィエタ・パツォウスカー作・絵 谷川俊太郎・訳
出版社:太平社
出版年:1993年 (絶版)

もうすぐまよなか。道化に誘われ、おしばいの好きなおつきさまは空から降りて、芝居小屋の観客席に座ります。眠っていた役者たちは、お月さまのひかりに誘われて、目を覚まします。バラバラ・ガチャンスキー、ドコニーモ・イクナエフ、オットット・コロブスカヤ……。名前だけではなく、姿もとても個性的な役者が揃いました。さあ、みんなでつくるおしばいの始まりです。役者たちは衣装とお化粧をつぎつぎに替えて演じます。
役者の衣装を彩る赤、緑、黄色などコントラストの強い鮮やかな色彩に胸がおどります。表紙や、なかのページには切り抜きや切れ込みがあったり、半透明のパラフィン紙にお月さまが印刷されたページがはさみこまれたりしています。そして、表紙に描かれたおつきさまは、しおりのようなひもにつながれて、自由にページを行き来することができます。
惜しくも2023年に94歳で亡くなった作者のパツォウスカーは半世紀以上にわたって、色や形だけでなく、紙の手触りや立体的なしかけなど工夫を凝らした絵本作りを追求しました。「絵本は子どもにとっての最初の美術館」と語ったパツォウスカーは、子どもたちが先入観にとらわれず自由に想像力を広げて楽しむことができる絵本をのこしました。

 

『にんげんごっこ』

木村裕一・作 長 新太・絵
出版社:講談社
出版年:1997年 (絶版)

幼少期に憧れの職業や誰かになりきってごっこあそびをしたことのある人は、少なくないでしょう。ですが、この本に描かれるごっこあそびは、少し変わっています。
森の近くにバスが走るようになって、動物たちは大騒ぎ。人間の町に興味津々の動物たちのもとへ、飼い猫だった野良猫の「のら」がやってきます。のらは人間の暮らしについて教えますが、動物たちはピンとこないようす。そこで、のらは「にんげんごっこ」をしようと提案します。しまうまくんが地面に寝そべれば横断歩道に、きりんくんが長い首を倒せば踏み切りの遮断機に、うしくんのまだら模様は地図に見立てて、にんげんの真似事をしますが……。
『あらしのよるに』の文章を手がける木村裕一と長新太がタッグを組んだ絵本。予想のつかないユニークな展開が画家によるダイナミックな筆致で描かれます。

 

『かずあそび ウラパン・オコサ』

谷川晃一・作
出版社:童心社
出版年:1999年

「1と2だけでかずあそびしよう 1はウラパン 2はオコサ」「さるが 1ぴきで ウラパン、バナナが2ほんで オコサだよ」この絵本には、1と2の数字だけしか出てきません。1頭のライオンはウラパン、2匹の魚はオコサ。それなら3頭のシマウマは?オコサ・ウラパン、4頭のゾウはオコサ・オコサ、ページをめくるごとに登場するものが増えていき……。
作者で画家の谷川晃一は、子どものころに聞いた「かずが二つしかない南の島の話」から絵本の着想を得たといい、「ウラパン」「オコサ」は実際にオーストラリアとパプアニューギニアの間に位置するトレス海峡の西部部族で使われている数詞です。美術評論家としても知られる谷川は、オーストラリアの先住民族の美術にも詳しく、自由で素朴なフォーク・アートに共感していました。シンプルな形態と鮮やかな色彩で描かれた絵と、呪文のようなことばの繰り返しが、不思議で楽しい世界へと誘います。2000年に第5回日本絵本賞受賞。

 

『なつのいけ』

塩野米松・文 村上康成・絵
出版社:ひかりのくに株式会社
出版年:2002年

自然に身を置くことをこよなく愛する村上康成。自然をテーマに多くの作品を手がけています。夏の池を泳ぐ生きものとそれを捕まえようとする子どもたちのようすが、シンプルな絵と文で描かれています。
真っ青な空、ソフトクリーム形の雲、駆ける日焼けした子どもたちを描いた夏らしい場面から絵本は始まります。ページをめくると、池をのぞきこむ子どもたち。池にはどんな世界が広がっているのでしょう。子どもたちを見守るように飛ぶトンボや、池のなかの個性あふれる生きものたち。そして、子どもたちが捕まえたメダカはどうなるでしょうか!? 俯瞰でとらえた池の情景、池のなかのようす、夕暮れどきの室内など、変化に富む場面展開と色彩が、絵本に臨場感をあたえています。身近な自然に目を向けさせてくれる絵本です。第8回日本絵本大賞受賞。

 

『シェイプ・ゲーム』

アンソニー・ブラウン・作
出版社:評論社
出版年:2004年

ある日ママが主人公のぼくや家族を、いつもは行かないところ、美術館へ誘います。テレビのサッカー番組が見たかったパパやぼくたち兄弟は、仕方なくついていくという感じ。しかし、ママと絵を見ながら話すうちにぼくたちと絵との距離は近くなって…。
作者のアンソニー・ブラウンは2001年頃、ロンドンのテートギャラリーで行われたプロジェクトに参加し、小学生に基本的な絵の見方を教えました。この経験は、新しい本を創る大きな動機になったといいます。
絵画は、与えられた情報やちょっとしたきっかけで、見方が変わるものです。ママやパパとの会話から想像が広がり、まじめな絵も印象がガラリと変わってとんでもないことになったり、食べ物を加えておいしそうな絵になったり。見開きで元の絵と想像の絵が描かれ、見比べて違いを楽しむことができます。
タイトルのシェイプ・ゲームは、ひとり目が描いた形から想像し、次の人が絵を描き足していく遊びです。後半の場面に登場するのですが、読み返してみると本のあらゆるところに登場していることに気が付きます。絵に描かれている岩が隣のページでは「あの動物」になり、波のなかに「あの形」が隠れています。この本を読んだ後には、目に見えるあらゆる形から、何かを想像せずにはいられなくなっているかもしれません。隅々まで楽しく、美術館に行きたくなる絵本です。