「HOME」をテーマにした絵本
ちひろ美術館・東京では、現在
いわさきちひろ生誕100年 Life展 作家で、母で つくる そだてる 長島有里枝
を開催中です。 [ 2018年11月3日(土)~2019年1月31日(木) ]
本展にちなみ、「HOME」をテーマに絵本を集めました。
『きっとみんなよろこぶよ!』
ピーター・スピアー・作 松川真弓・訳
出版社:評論社
出版年:1987年
閑静な住宅街に住む両親と3人の子どもたち。ある土曜の朝、留守番の人が来ることを伝え、お父さんとお母さんは車で出かけます。しかし、留守番の人は来ることはなく、子どもたちは、地下の物置にあるたくさんのペンキを使って、お父さんの代わりに家の塗り替えをしようと奮闘します。木の壁は赤に、煙突はオレンジに、板塀は紫に……。「おとうさんとおかあさん、かえってきたら、きっとよろこぶね!」色とりどりになった家を見て、子どもたちはご満悦です。
両親を喜ばせようと、子どもの自由な発想で展開する善意の所業に、読者はハラハラしながらも惹きこまれていきます。冒頭の画面は控えめな色彩のみで始まり、徐々にペンキのさまざまな色彩が登場、最後はすべての色がごちゃ混ぜに……、繊細なタッチと大胆な色彩は、大人の常識と子どもたちの感性を対比しているかのようです。事の大小はさておき、多くの人に経験のある出来事がユーモアたっぷりに描かれています。
『かきねのむこうはアフリカ』
バルト・ムイヤールト・文 アンナ・ヘグルンド・絵 佐伯愛子・訳
出版社:ほるぷ出版
出版年:2001年
主人公のぼくがすんでいるのは集合住宅地。同じような形をした家と庭が並び、どの庭にも物置が立っていました。となりの家に住んでいる奥さんは茶色の肌をしたデジレーさん。ある日、彼女は家の庭にある物置を解体してしまいます。それを見て、近隣の人たちは怒ったり驚いたり。でも、主人公は垣根越しに興味をもって眺めています。物置のあとに、粘土を流し込み、彼女は毎日働き続けます。父親から、彼女の故郷はカメルーンという国だと聞き、その国について何も知らないことに気づいた主人公。ある日、粘土で、デジレーさんはとうとう庭のなかにちいさな家をつくりあげました。彼女は主人公を招待し、彼は初めて垣根を越え、その中に入ります。あたたかみとユーモアのある絵が、どの国にもありえる異文化との出会いを淡々と描いています。
『14ひきのひっこし』
いわむらかずお・さく
出版社:童心社
出版年:1983年
「おとうさん おかあさん おじいさん おばあさん そして きょうだい 10ぴき。ぼくらは みんなで 14ひき かぞく。」14ひきの野ネズミの家族は、森の奥を目指して引越しをします。やっと見つけたすてきな木の根っこに、3階建ての立派な家をつくりました。材木を切り出し、川から水をひく水道をつくり、橋を架ける行程が、昔ながらの里山の生活風景のように詳細に描かれています。見開きのページのみで構成されており「おっと、しりもちつきそうなのはだれ?」「さっちゃんがもってきたおやつはなに?」などの問いかけに、登場する14ひきのだれがだれなのか、表紙の人物紹介と見比べながら答えを探すのも楽しめます。作者自身の田舎への引越しという実体験をもとにつくられた本作は、あとに続く14ひきシリーズとともに、素朴な田舎暮らしの魅力を教えてくれます。
『おんぶはこりごり』
アンソニー・ブラウン・著 藤本朝巳・訳
出版社:平凡社
出版年:2005年
父母と2人の息子のピゴット一家は、家事は全て母親まかせ。皆の片付けをしてから、彼女は仕事へ出かけます。ところがある日、母親がいなくなり、「ぶたさんたちのおせわはもうこりごり!」という手紙が残されていました。父と息子たちは慣れない料理・皿洗い・洗濯に苦労、家はブタ小屋のようになり、とうとう食料も底をつきます。その時母親が帰ってきて…。 ブラウンが知人の家族を思い浮かべながら作ったという絵本。初めは、ブタの顔を写実的に描きましたが、そのグロテスクで深刻な表現を修正し、よりユーモラスな形に描きなおしました。ブタを画面のいたる所に潜ませて描き、話の行方を暗示させています。
『ぼくのうちはゲル』
バーサンスレン・ボロルマー・さく 長野ヒデ子・訳
出版社:石風社
出版年:2006年
ジルの最初のうちは、まあるいかあさんのおなかのなか。2ばんめのうちも、まあるいゆりかご。3ばんめのうちは、やっぱりまあるいうち、ゲル。ジルはゲルがとてもきにいった―。組立・解体のしやすい家「ゲル」に住み、季節ごとに住む場所を移動していく、伝統的なモンゴル遊牧民の1年の暮らしを描いた絵本です。細かく描かれた民族衣装と調度品、髪型はもちろん、新年のおまつり(ツァガーンサル)のごちそうとして描かれている、羊の肉・揚げパン・パオズ・馬乳酒といったメニューからも、家畜とともに生きるモンゴル遊牧民の伝統的な暮らし・食風景を知ることができます。チロリシャンシャン ユラユラ ユラリ チロリシャンシャン ユラユラ ユラリ ラクダの背に揺られて聞く鈴の音が、雄大なモンゴル平野のイメージを彷彿とさせます。
『あしたは月よう日』
長谷川集平・作
出版社:文研出版
出版年:1997年
日曜日、いつもは仕事で忙しいお父さんが久しぶりに家でくつろいでいます。テレビを見ながら、鼻をほじったり、たばこを吸ったり、おならをしたり。その様子を見て、ふたりの子どもはかわるがわる文句をいいます。台所で洗いものをしていたお母さんがとりなしますが、女の子はお父さんの態度に我慢ができず声を荒げます。「おとうちゃんなんか、家におらへんほうが わたしら しあわせやわ。日よう日やのに、どっこもつれってってくれへんし。」急に涙を流すお父さん。ちょっといい過ぎたかな、と思ったら……。ここに登場する4人家族はお互いに見つめ合ったり、触れ合ったり、ましてや温かいことばを交わしているわけではありません。同じ方向を見る家族の視線は交わりませんが、心のなかはつながって、得難い時間を共有している様子が最後の3場面でみごとに描き出されています。ありふれた日常のなかにある尊いものに気づかされます。
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