ちひろ展紹介③ 動物の表現 モノクロームで描く
ちひろ美術館・東京で開催中の展覧会「ちひろ いつもとなりに―子どもと動物―」について、展示担当学芸員が、その見どころをご紹介します。
第3回
動物の表現② モノクロームで描く
ちひろが描いた動物の絵には、モノクロームで描かれたものも多くあります。描く対象の特徴や、絵の雰囲気にあわせて、ちひろは鉛筆や墨、インクなどの画材を使い分けていたようです。
・線の強弱

いわさきちひろ 蜂雀を見つめる少年 『花の童話集』(童心社)より 1969年
この作品は、宮沢賢治の童話『黄いろのトマト』(『花の童話集』童心社)のために描かれました。主人公の少年が、はちどりの剥製を、愛おしそうに見つめる姿が描かれています。墨で描きこまれたはちどりと対比するように、少年の顔と手は、シンプルな鉛筆の線で表現されています。また、顔の輪郭線をあえて省略することで、鑑賞者の視線は、まず少年の目に向かい、そこから手前のはちどりへと自然に導かれていきます。ちひろは、線の強弱と省略を巧みに用いることで、少年のまなざしと感情を表現しました。
ちなみに、はちどりの描写について「はちどりって、もう少しくちばしが長いのでは?」と、鳥好きの方は思われるかもしれません。細長いくちばしが特徴のはちどりですが、ちひろが描いた鳥はくちばしが短く、どちらかというとすずめに似ています。これはおそらく、文中の「蜂雀」(はちすずめ)という名前からイメージを膨らませたのだと思われます。
・インクで描かれた小鳥たち
同じ小鳥の絵でも、画材が違うと印象が変わります。書籍の挿し絵として描かれた小鳥のカットには、インクで描かれた作品が多く見られます。迷いのない線で、勢いよく描かれた小鳥たちは、今にも画面から飛び出してきそうです。いっしょに描かれた樹木や植物の描写も魅力的です。

いわさきちひろ 枝にとまる小鳥たち 1965年

いわさきちひろ 木にとまる小鳥 1965年
・『ぽちのきたうみ』

いわさきちひろ 少女と小犬 『ぽちのきたうみ』(至光社)より 1973年
絵本『ぽちのきたうみ』(至光社)では、女の子が飼い犬とじゃれあう姿が墨で描かれています。この絵本をつくるにあたり、ちひろは原画のほかに50点をこえる習作と2冊のダミー本を制作しました。説明的な要素をできるだけ抑え、一筆に集中して描くという、水墨画にも通じる精神で、ちひろはこの絵本の制作に取り組んでいたようです。大胆な筆遣いで描かれた小犬は、いきいきとした躍動感にあふれています。
バリエーション豊かな動物の表現を、ぜひ展示室でお楽しみくださいね。
▽開催中の展覧会:2026年3月1日(日)~ 5月10日(日)
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ちひろ いつもとなりに―子どもと動物―
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