[表紙の作品] いわさきちひろ 「マフラーをした少女」1970年頃

いわさきちひろの描いた作品には、背景に具体的なものは描かれていない絵がいくつもあります。この絵もそのひとつで、水彩によって、淡い青色や紫色、黄色などの色が重ねられているのみです。右寄りに描かれた少女は大きなマフラーを巻いた上半身が流れるような鉛筆の線でとらえられており、その輪郭がなければ、身体は背景に溶け込んでしまいそうです。
この作品を見る人の視線は自然と少女の横顔、その黒い瞳へと注がれるでしょう。彼女の目に今なにが映っており、どのような音が聞こえているかを想像するのは、私たちに委ねられています。