ユゼフ・ヴィルコンの絵本

安曇野ちひろ美術館では、現在 96才、画家。ユゼフ・ヴィルコン。

ポーランドの巨匠 を開催中です。 [202631()67() ]

 

展覧会にあわせて、ユゼフ・ヴィルコンの絵本をご紹介します。

日本では、ヴィルコンの絵本は今までに30冊以上翻訳・出版されています。展示室にも、これらの絵本を手にとって読める場所を設けています。残念ながら重版未定で、現在は書店にない絵本も多くあります。展覧会にいらっしゃれない方も、ぜひお近くの図書館や図書室などでさがしてみてください。

(※彼の苗字はさまざまに表記されてきていますが、解説文では「ヴィルコン」に統一し、絵本の書誌情報では、絵本に掲載されている表記をそのまま記しています。)

 

『ミンケパットさんと小鳥たち』

ウルスラ・ジェナジーノ・作 ヨゼフ・ウィルコン・絵 いずみちほこ・訳
出版社:らんか社
出版年:1999年(日本での初版はあかね書房、1971年)

「森のえさばこがかり」に就いたミンケパットさんは、だんだん小鳥たちのことばを覚えていきました。歳をとって仕事をやめてからは、部屋にピアノを置き、小鳥たちのさえずるメロディーを演奏することを試みます。いつしか、部屋には小鳥たちが集まるようになりました。
一方、人間にはよくわからない音ばかり鳴らすミンケパットさんは、人間の友だちがいません。小鳥たちと冬を過ごすため、えさを買ってお金が底をつきても、だれも助けてくれません。困り果てていたとき、ミンケパットさんの奏でる小鳥のメロディーがきっかけになり、転機が訪れます。
ヴィルコンは、たっぷりと水を含んだ筆づかいと、軽やかな線描を組み合わせて、人と小鳥の交流を描き出しました。日本の絵画にも影響を受けたと語っており、随所に濃淡のある黒が使われているこの絵本は、文人画にも通じる素朴なあたたかさに包まれています。

 

『やさしいおおかみ』
ペーター・ニックル・作 ユゼフ・ウィルコン・絵 佐々木 元・訳
出版社:フレーベル館
出版年:1983年

みなさんは、動物にどんなイメージをもっていますか?
おおかみは怖くて獰猛で、うさぎは弱虫? きつねはずる賢くて、ふくろうは利口? そう思ったそこのあなた、ぜひこの本を開いてみてください。
ある森に、秩序を守るため、いつも怖い顔をしているおおかみがいました。ある晩、ふくろうに「もっとみんなにやさしくしてあげたらいいのに」といわれたおおかみは、そのとおりだと思い、どうしたらいいのか考えることに。すると、いままで気づかなかった、きれいな花やおいしい野イチゴに気がつきます。薬草を集めて医者になったおおかみを、森の動物たちは信じられずにいますが……。
おおかみ、きつね、うさぎ、ふくろう、いのしし、しか……、たくさんの動物が登場する本作。いのししやおおかみのオーバーコート(上毛)はパステルで一本一本丁寧に、しかやうさぎのつるりと丸い体は水彩で、それぞれ描きわけられており、ヴィルコンの動物への深い愛情が感じられます。ふくろうのことばを受け入れつつ、自分なりに「やさしさ」について考えるおおかみ、根拠のないことを無責任にいい広めるふくろう、混乱に乗じて害をなすきつねなど、他者との関係を考えさせるとともに、どんな人にも多様な側面があることを教えてくれる絵本です。

 

『天国のいねむり男』

遠藤周作・作 ヨゼフ・ウィルコン・絵
出版社:河出書房新社
出版年:1985年

イエスさまの弟子のズボラは、スーパーマンや円盤が好きな今どきの子どもに、神さまのことも考えてもらうため、東京にやってきます。巨大な建物が並ぶ街で、ズボラは見かけた子どもに遊ぼうと声をかけますが、「塾に行くから忙しい」「知らない人について行ってはいけないといわれている」などと相手にしてもらえません。勉強に追い立てられ、知らない大人を不審者と判断する子どもたち。ズボラが知っている子どもは、飛んだりはねたり、笑ったり、空や小鳥や虫と話をしたり、大人を信頼していました。
塾へ向かったズボラは、先生や生徒に生き物の美しさや、自然のなかで遊ぶことの楽しさを伝えようとしますが…
遠藤周作が書いた物語の世界を、ヴィルコンがパステルで鮮やかに描いています。今から40年以上前(1985年)に刊行されましたが、当時と同じように子どものしあわせについて思いを巡らす絵本です。

 

 

 

『こぐまのやま』

マックス・ボリガ―・文 ヨゼフ・ウィルコン・絵 いずみ ちほこ・訳
出版社:セーラー出版
出版年:1988年

山のふもとにいた3匹のこぐまが、日をあびてキラキラ光る山のてっぺんを見て、頂上までいってみようと登り始めます。途中で道がふたつに分かれて、一のこぐまは左の道に、二のこぐまは右の道に行こうといいます。三のこぐまだけがまだ決まりません。とうとうけんかが始まり「ぼくは ぼくのみちを いく」と、一のこぐまと二のこぐまは別々の道を歩いていきました。険しくなる道を進むうちに、それぞれ途中でオオカミやトラに出くわします。そして、三のこぐまは……。こわい気持ちに負けず、「くまぢから」をふりしぼるこぐまたちに、思わず声援を送りたくなります。
ヴィルコンは山を舞台にしたこの絵本を描くのに、色紙を用いて光の変化や場の雰囲気を効果的に表現しています。日差しに輝く山は黄色の紙に、植物が生い茂る斜面は緑の色紙、うっそうとした暗い山奥の場面には濃い紺や茶の紙を選び、色紙の上にパステルで草花や動物たちを描いています。

『カツペル、話してごらん!』
ピョトル・ヴィルコン・文 ユゼフ・ヴィルコン・絵 田村和子・訳
出版社:グリーンピース出版会
出版年:1989年

絵本の表紙のネコは目を閉じて、パイプをくわえて、どこかのおじいさんのよう。絵の下の方には手書きで文字が書かれており、ポーランド語で「眼鏡をかけなければいけないのに、私はネズミをつかまえられるだろうか?」と読めます。
このお話の語り手であるピョトルは、夜、部屋のなかでネコのカツペルに語りかけますが、もちろん答えはありません。それでも問いかけを続けていたところ、「ネコがどんな空想するか、ピョトル、ほんとに知りたいか?」と急にカツペルが人間のことばを話しました。そして「人間とネコの役割を交代しよう。」と提案し、ネコと人間の立場が逆転します。なんとも不思議なお話ですが、絵が先にあったためかもしれません。
少しサイズが大きいこの絵本には表紙の他に22のパステルで描かれたネコの絵がおさめられており、画集のような楽しみ方もできます。ヴィルコンは、一人息子との共作の絵本が何冊かありますが、これもその1冊。彼が好んで描く月、コウモリ、鳥も登場します。

 

『二羽のツグミ』

ユゼフ・ヴィルコン・作 さかくら ちづる・訳
出版社:評論社
出版年:2004年

春の日に出会った森のテノール歌手のツグミくんと、彼のきれいな歌声に惹かれたツグミさん。一度は別れますが、二羽は再開を果たし、やがて結婚して子どもをもうけます。二羽のツグミは子どもが手をはなれると、海のむこうまでいっしょに旅をしました。ツグミくんが有名になるとパーティーやコンサートの仕事はふえ、大きくなった家の大工仕事で忙しくなっていきましたが、ツグミさんはいつもツグミくんのおともをして、二羽で支えあって暮らしていました。しかし、別れの日は突然おとずれます。ある日、とまり木でさえずるツグミさんが、タカに襲われてしまったのか、姿を消したところでこの物語は終わります。
さまざまな鳥の姿や、美しい風景や空をパステルで描くこの絵本は、ユゼフ・ヴィルコンががんで亡くなった最愛の妻に捧げた絵本です。愛し合うものどうしがともに生きる喜びと、突然訪れる悲しい別れを描いています。

 

『4ひきのちいさいおおかみ』
スベンヤ・ヘルマン・文 ヨゼフ・ヴィルコン・絵 石川素子・訳
出版社:徳間書店
出版年:2021年

ある星のきれいな夜。4匹のおおかみの子どもたちが目を覚ますと、お母さんがいません。巣穴から顔を出し、大きく息を吸うと、夜の森のあまいかおりが。4匹は、そっと巣穴を抜け出し、初めて自分たちだけで森へと歩き出します。
湖に映る自分たちの姿に驚いたり、湖に入って泳いでみたり、森に住むいきものたちと出会ったり。どんどん進むうちに、思いがけない不思議な生きものとも出会います。どんな生きものと出会ったのでしょう。4ひきは、遠くまで来てしまいましたが、無事に巣穴のお母さんのもとに帰れるのでしょうか。

新しい小さな一歩のどきどきと、帰る場所のぬくもり。子どもたちの冒険と成長をやさしく見守る一冊です。