山・りんご・温泉の絵本
安曇野ちひろ美術館では、現在 ちひろ 心のふるさと 信州 を開催中です。
[2026年3月1日(日)~6月7日(日)]
本展にあわせて、山やりんご、温泉にまつわる絵本をご紹介します。

『りんご畑の12か月』
松本猛/文 中武ひでみつ/絵
出版社:講談社
出版年:2012年
長野県は、りんごの収穫量が年10万tを超える一大産地です。「秋映(あきばえ)」や「シナノスイート」、「シナノゴールド」など、信州で生まれた品種も数多くあります。
おいしいりんごをつくるためには、たくさんの手間がかかっています。1月、朝焼けが雪山を染める夜明けから作業は始まり、2月の剪定、3月の接ぎ木……毎月りんごの木が育っていくようすを、りんご農家のやすおじさんが手紙につづりました。
ひらがなで子どもにもわかりやすく書かれた本文と、巻末につけられた場面ごとの解説で、安曇野のりんご農家のくらしが語られます。安曇野市で実際にりんごを育てながら制作されたこの絵本には、主役のりんごだけでなく、畑を囲む山並みや稲穂が実る田んぼ、四季折々の生きものも描かれています。
夜明けとともに始まったりんごづくりは、12月、収穫を終えると日暮れとともに眠りにつき、また次の1月を待ちます。季節や時間による色彩の移ろいにも注目してみてください。

『ピンクのいる山』
村上康成・作
出版社:徳間書店
出版年:2000年
1匹のヤマメの視点から、ドラマチックな自然の物語を描いた〈ヤマメのピンク〉シリーズの4作目です。この『ピンクのいる山』に描かれているのは、春から夏へと移り変わる時期でしょうか。ピンクという名のヤマメの子が、カゲロウなどの虫を食べながら生活するそばで、川にやってきたおじいちゃんと孫が、釣りや山菜採りをしています。ピンクがおじいちゃんの針に飛びつく寸前で、別のヤマメが釣り上げられます。ピンクたちが川を泳ぐ一方で、ふたりは火を囲みながら釣ったヤマメや採った山菜を食べます。
この絵本は、ヤマメと人間というふたつの異なる視点から、川に生きるさまざまな生命のドラマを描き、自然と人間を並列に見せています。人間と自然がかかわりあいながら生きていること、食べる食べられるを繰り返しながら、さまざまな命がめぐっていることを感じさせます。
このシリーズに特徴的な横長の画面は、歌舞伎の舞台から着想を得ています。まるで書き割りのように、雄大な自然の美しさをパノラマで見せています。生き物の特徴をとらえて単純化し、ページごとに大胆に構図を変化させるのも、村上康成が描く絵本の魅力です。

『槍ヶ岳山頂』
川端誠・作
出版社:BL出版
出版年:2014年
長野県には、たくさんの山があり、全国から登山者がやってきます。いわさきちひろも、小学生のときに父親と、ふるさと信州の名峰である燕岳に登っています。中房温泉で、家族と撮った写真がありますね。
この絵本の主人公も小学生。5年生の彼は、お父さんと燕岳、そして槍ヶ岳を縦走したことを語り、そのことが1冊の絵本になっています。実は私も安曇野に住んでいたときに燕岳に登りましたが、この絵本を読んでそのことを思い出しました。
山を歩くときの休憩のとりかたの心得や、食べたもの、見えた景色。高山植物などが、いろいろな角度で少年のことばとともに丁寧に描かれています。途中で雨が降り出し、ガスがかかって景色が見えなくなるなか、「きつい上りの連続だ。」というところでは、読むほうも、心拍数が上がります。主人公は雨のなかを登りながら、友だちとサッカーをしていることなど、楽しいことを想像しながら、「くるんじゃなかった」、と本気で思い始めます。
山を登ったことのある人なら、彼の気持ちに共感することが多いことでしょう。槍ヶ岳山頂に着いたときの場面は、感慨深いものがあります。
本の見返しには、実際の登山ルートが、山小屋などの記念スタンプとともに掲載され、裏表紙には、作者が10才の長男を連れて行った取材のときの山での写真が見られます。
山を登る厳しさと喜びが伝わってくる一冊です。

『おんせん ぽかぽか』
パト・メナ 作絵/星野 由美 訳
出版社:岩崎書店
出版年:2023年
雪が降りつもる寒い朝、さるの家族が向かったのは、温泉です!目を閉じて、「ふぅー ぽかぽか」と、お湯につかる姿は、なんとも気持ちよさそう。しっかり体を温めたら、次は木の実をかりかり食べて、ふたたび温泉へ。ごはんを食べて、温泉に入り、雪山を転がって遊ぶ、さるたちの一日が、オノマトペとピクトグラム(絵文字)を使ってリズミカルに描かれています。
作者のパト・メナは、チリ出身、スペイン在住の絵本作家です。日本好きのメナは、長野県・地獄谷温泉のさるたちから着想を得て、この絵本を制作しました。原書はスペイン語ですが、日本語版では、日本固有のオノマトペを豊富に取りいれたそうです。色鉛筆で描かれたシンプルで親しみやすい絵が、物語にぬくもりを与えています。コロコロと表情を変えるさるたちの姿に、癒される一冊です。
さる以外にも、コガラや野うさぎ、りすなど、信州に生息する動物たちがこっそり登場しているので、ぜひ探してみてくださいね。

『科学のアルバム34 ニホンカモシカ』
宮崎学 著
出版社:あかね書房
出版年:1974年
野生のカモシカに出会ったことはありますか?
ニホンカモシカは、1955年に国の特別天然記念物に指定され、長野県など6つの県では、県のシンボルとして《県獣》に定められています。人を寄せつけない高山や深い山に棲み、その生態をうかがい知ることは難しい動物ですが、本書では、四季の巡りのなかで生きるカモシカのようすが、豊富な写真と解説で紹介されています。「カモシカは、シカのなかま? ウシのなかま?」「なにを食べているの?」「群れをつくるの?」「どんなところに棲んでいるの?」「目の下にある穴はなんのため?」カモシカについての疑問の答えは、ぜひ、本のなかでお確かめください。
著者は、長野県伊那谷出身の写真家・宮崎学です。「自然界の報道写真家」として、当時、生息数が少なく写真に収めることが難しいとされていた南アルプスのカモシカの撮影に取り組み、その成果を、本書をはじめとする書籍にまとめています。
近年では、市街地に出現するカモシカも多くなりました。しかし、単純に個体数が増えているのではなく、温暖化の影響でシカの生息域が広がり、もともとの住処を追われたことが一因と考えられています。カモシカ、シカ、クマ……。隣人との共生について考えるきっかけに、本シリーズを手に取ってみてはいかがでしょう。

『はるのやまはザワザワ』
村上康成 作・絵
出版社:徳間書店
出版年:2001年
冬の山は、動物たちの活動も静かで、どこか寂しげです。
こぐまのグルルは一日中寝てばかり。眠っているあいだに、山はすっかり春へ……。
耳を澄ませると、春の声が聞こえてきます。
ぽかぽか陽気のなか、お母さんぐまといっしょに、ハチミツを探しに出かけるグルル。すると、山がザワザワとしゃべっています。動物たちがいっせいに動き出し、植物が芽吹きます。
ザアザア、ググッ、バチャッ、タタッ、
リズミカルに響く音とともに、鮮やかな色彩で大胆に簡略化されて描かれた動物や植物が画面に広がります。自然のなかで過ごすことが大好きな村上ならではの表現で、グルルを通して、いのちの音であふれる春の山のようすが描かれています。
長い冬が終わり、待ちに待った春の喜びが感じられる一冊。読み終えた後は、自然のなかへ出かけて、耳を澄ませたくなる絵本です。

『ぼくたちのやま』
谷内こうた・絵と文
出版社:至光社
出版年:2018年
ゆったりとすそ野が広がる低い山。日本のどこかにきっとあるような山を中心に、四季の移り変わりと子どもたちが描かれます。降りしきる雪、タンポポの咲く野原、入道雲、紅葉の山。日本で繰り返される身近な風景です。
2011年東日本大震災が起こった時、谷内こうたは拠点にしていたフランスにいました。画面に流れる震災の映像を見ながら、日本のことを心配していたといいます。そして2018年にこの絵本をつくりました。自然の恐ろしさを目の当たりにしたわたしたち。絵本に描かれた美しく穏やかな風景は、共にある自然を思い出させてくれます。谷内はあとがきで「見てくださる方がそれぞれに、季節の移ろいを感じてくださればと思っています。」と語っています。
安曇野ちひろ美術館も北アルプスの麓にあり、山々に囲まれています。季節や天候により日々変化する山々の景色は美しく、時に息をのむようです。身近な山を眺める平和な時間を大切にしていきたいと思う絵本です。

『ブルーナのおはなし文庫⑤ ボリスのやまのぼり』
ディック・ブルーナ 作/角野栄子 訳
出版社:講談社
出版年:1994年
こぐまのボリスは山登りが大好き。急な坂道もへいきです。どんどん登って山のてっぺんに着きました。「わあ、すごい。遠くまでよく見える。」 山の向こうからお日さまがのぞいています。そこへ、なかよしのバーバラがリュックサックをしょって、山を登ってきました。テントを持ってきたというのですが、雲がもくもく出てきて……。
ディック・ブルーナは、世界中で愛されるミッフィーの作者として広く知られています。南フランスの森にも仕事場を持っていたブルーナは、美しい森でのくらしを絵本にしたいと、こぐまのボリスの物語を思いつきます。1989年に『こぐまのボリス』、つづく『ボリスとバーバラ』ではガールフレンドが登場します。冒険心いっぱいのボリスとしっかり者のバーバラという設定に、「ボリスはあなたのようだわ」と妻に言われたとブルーナは回想しています。
本作は同シリーズの3冊目にあたります。赤、青、緑、黄の基本の4色にくまの茶色を加え、黒の輪郭とシンプルな形で描かれたブルーナ特有の画面は、空の広さや山から見下ろす景色、流れる雲や雨のようすを自由に想像する楽しさがあります。山のてっぺんで、テントの鮮やかな黄色を背景に並ぶ、ふたりの姿が印象的です。
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