学芸員による「あれ これ いのち」展 みどころ紹介⑤

残り数日となった展覧会「あれ これ いのち」では、共生をキーワードに、身近な植物、人と自然がともにある「野」、「むらさき」など、いくつかのテーマで展示を構成しています。本展でも、いわさきちひろの魅力的な作品の数々が見られますが、本展紹介最後のブログでは、私が特に好きな作品をご紹介します。

「この男の子、どこにいると思いますか?」
先日のギャラリートークで参加者に問いかけたところ、「部屋のなか」「くつろげる場所」などの意見がでました。背景全体には、ちひろの好きなもも色、水色、藤色、その他淡い色がにじみとぼかしで広がっています。

 いわさきちひろ 光のなかの男の子 1963年

 この作品は、『続 ね、おはなしよんで』(童心社)の裏表紙のために描かれたものです。表紙はこちらで、子どもたちが4人。遊んでいるのか、歩いているのか、お話ししているのか、動きが感じられる絵です。

『続 ね、おはなしよんで』(童心社、1962年)表紙 ※この作品は展示していません。

 一方で、裏表紙の男の子はひとりで座っており、靴も履いていないので、ひとやすみ、といったところでしょうか。静かさを感じます。

 『続 ね、おはなしよんで』は、1962年に、「36才ころまでの幼い子どもたちに読んで聞かせる本」として出版された『ね、おはなしよんで』が好評だったため、続編として1963年に出版されました。児童文学者の与田準一らがが選んだ古典、名作のお話と詩がテーマごとに50以上収められています。絵では、ちひろの他に、遠藤てるよ、安泰、佐藤忠良らが作品を提供しています。

 この本の扉のために描かれた、ちひろの作品がこちら。

いわさきちひろ 野の草 1963年

黒い線だけで、秋の野の草花が並んでいます。
本の中では、それを、横ではなく縦にレイアウトし、線は緑色にしています。

『続 ね、おはなしよんで』(童心社、1962年)中扉

  装本をちひろが担当したと分かる、アイディアです。

 本のなかは、黒色と、わずかに扉と目次でこのように緑色が使われているのみ。だからこそ、表紙と裏表紙で、色をなるべく多く、美しく、使いたかったのかもしれません。

◆2024年3月1日(金)~6月16日(日)
いわさきちひろ ぼつご50ねん こどものみなさまへ あれ これ いのち
※6/17(月)~6/21(金)は、展示替えのため臨時休館いたします。