[表紙の作品]いわさきちひろ 第一夜 インドの少女 1966年 『絵のない絵本』(童心社)より

アンデルセンによる連作短編集『絵のない絵本』の第一夜、婚約者の無事を祈る娘がガンジス川にランプを流す場面です。娘が一心に見送る、まばゆい小さなランプの光と、そのようすを静かに照らす月、ふたつの光が読者を幻想的な物語の世界へ誘います。ちひろは同じ場面を、油彩画、童話集の口絵と挿し絵、絵本にそれぞれ異なる画材で描きました。最後に描かれた本作ではモノクロームで描くことに取り組みました。目の粗い画用紙に鉛筆を寝かせて、明滅するランプの光を反射する水面が表現されています。背景は墨で濃淡の調子がつけられ、闇に沈む草むらの奥行きを感じさせます。