[表紙の作品]いわさきちひろ「うきぶくろで泳ぐ少女」『ぽちのきたうみ』(至光社)より 1973

夏の海辺で、うきぶくろに乗って波間を泳ぐ少女の姿が描かれています。明るい黄色と海の青、水着の赤い色のコントラストも鮮やかに、小麦色に焼けた少女の元気なようすが伝わってきます。太い筆で描いた勢いのある筆致が、波の揺らめきを感じさせます。巧みに塗り残した紙の白さによって、水面や髪にあたる夏の強い光の反射をあらわしています。絵本『ぽちのきたうみ』の最終盤、待ちわびていた愛犬のぽちが旅先に到着して、いっしょに海で泳ぐ場面です。少女のよろこびの心情が見事に表現されたこの絵に見られる、おおらかで伸びやかな画風は、晩年に到達したちひろの自由な心境を示しています。