ショーンタン 『アライバル』より 2004~2006年

ショーン・タン 『アライバル』より 2004~2006年

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ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ

絵本『アライバル』で知られるオーストラリアの作家、ショーン・タン(1974~)は、その独創的な世界観と表現力で世界中の人々を魅了してきました。日本初の大規模な個展となる本展では、代表作のほか、立体作品、資料、映像も含めて、その魅力をたっぷりとご紹介します。

居場所をもとめて

タンが初めて絵と文章を手がけた絵本『ロスト・シング』は、ある夏の日に少年が浜辺で出会った迷子の居場所を探す物語です。その迷子は、軟体動物と蟹とだるまストーブが合体したような姿をしています。迷子には、顔もありませんが、体から出た触手や煙突のような部分から出る煙などから愛嬌(あいきょう)のある表情がうかがえ、読み進めるうちに、不思議と愛らしく感じられます。

ショーンタン 『ロスト・シング』より 1999年

ショーン・タン 『ロスト・シング』より 1999年

この絵本では簡潔な文章に対して、絵が多くのことを物語っています。背景にコラージュされた図や数式、緑のない景色、威圧的な建物、通勤電車の無表情な人々などから、迷子は管理された社会からはみだした存在であることがわかります。
タンはこの絵本を元に4人のクリエイターと協同して、9年の制作期間を経て15分間の短編アニメーション映画を完成させました。絵本で表現しきれなかったいくつかの側面を音や動きと共に描いています。迷子の仲間ともいえるヘンテコな生き物たちもそのひとつで、タンの想像から生まれた彼らは映画のなかでいきいきと動き回っています。本展では、不思議な生き物のイメージスケッチや立体作品も展示します。

ショーンタン 生命山羊(ライフ・ゴート)と山羊飼い、および乗客たち 2010年

ショーン・タン 生命山羊(ライフ・ゴート)と山羊飼い、および乗客たち 2010年

ショーンタン いたずらがきをするやつ 2011年

ショーン・タン いたずらがきをするやつ 2011年

『アライバル』も居場所を求める物語です。全6章、128ページに及ぶ本のなかには既存のことばがひとつも記されていません。鉛筆で緻密(ちみつ)に描かれた絵だけで、家族を守るために新天地に渡った男の物語を軸にして、移民の姿が描かれています。移民たちが故郷を捨てざるを得なかった辛い想いや、新しい土地での文化の違いへの戸惑いなどを表現するため、タンは、物語からことばをなくし、代わりに文字に至るまで架空の世界のディテールを視覚的につくり込んでいます。

ショーンタン 『アライバル』より 2004~2006年

タンは、制作に約6年を費やし、移民についての徹底的な調査を行い、おびただしい数のイメージスケッチや絵コンテを描きました。さらに、自ら主人公の男を演じた場面を写真に撮り、それを鉛筆で描き起こすという気が遠くなるような作業を繰り返して本作はでき上がりました。
漫画のようなコマ割りの絵、1ページの絵、見開きの絵を巧みに組み合わせて、まるでサイレント映画のように時間の流れや、空間の移動、人物の動きをとらえています。ファンタジーとして描かれたこの物語を通して、現実をより深く感じ取り、理解するには、想像力が何よりも大切であることに気づかされます。

ショーンタン 『アライバル』より 2004~2006年

ショーン・タン 『アライバル』より 2004~2006年

どこでもないどこかへ

『遠い町から来た話』は郊外を舞台にした奇想天外な短編集です。

ショーンタン 「火曜午後の読書会」『遠い町から来た話』より 2004年

ショーン・タン 「火曜午後の読書会」『遠い町から来た話』より 2004年

最新作は、その姉妹編となる『内なる町から来た話』(邦訳仮題)で、都市を舞台に25の動物の寓話が収められています。例えば、空を泳ぐ魚を採った少年が、地上では生きることができない魚の卵を再び空に返してあげる物語をはじめ、都市の情景に現れる白昼夢のように謎めいたイメージを鮮やかにとらえられています。そこには人間中心の社会に警鐘を鳴らすタンのまなざしも感じらます。

ショーンタン 『内なる町から来た話』(邦訳仮題)より 2018年

ショーン・タン 『内なる町から来た話』(邦訳仮題)より 2018年

原画は縦1m、幅1.5mほどの油彩で、腕の動きを生かして描かれた豊かな筆致は迫力があります。
絵本『夏のルール』の原画を含む約120点の作品と資料のほか、タンのアトリエを再現したコーナーを展示し、彼が描く不思議で懐かしいどこでもないどこかへご案内します。

 

ショーン・タン Shaun Tan

1974年オーストラリア生まれ。幼いころから絵を描くことが得意で、学生時代にはSF雑誌で活躍。西オーストラリア大学では美術と英文学を修める。オーストラリア児童図書賞など数々の賞を受賞。2006年に刊行した『アライバル』は23の言語で出版されている。イラストレーター、絵本作家として活躍する一方、舞台監督、映画のコンセプトアーティストとしての活躍の場を拡げている。9年の歳月をかけて映画化した『ロスト・シング』で2011年にアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞。同年、アストリッド・リンドグレーン記念文学賞も受賞。

<企画展>ショーン・タンの世界展どこでもないどこかへ  特設サイト

 

展覧会関連書籍
『ショーン・タンの世界 どこでもない どこかへ』(求龍堂)
著者:ショーン・タン
監修:ちひろ美術館
仕様:B5変型(257×188ミリ)、総頁194頁、掲載作品点数約130点
ISBN:978-4-7630-1908-0 C0071
定価:本体2,500円+税
発売:ちひろ美術館・東京 ショップにて5月11日(土)より先行
(一般書店では5月24日発売予定)

ショーンタンの世界 書影

ショーン・タンの世界 どこでもないどこかへ(求龍堂)