西巻茅子の絵本

4月27日は西巻茅子さんのおたんじょうび!

現在、ちひろ美術館・東京では「西巻茅子 はじめての絵本『ボタンのくに』そして『わたしのワンピース』」を開催中です(~2025年5月11日)。館内の図書室では、西巻さんがこれまでに手がけられた100冊以上の絵本のなかから、40冊を手に取ってお読みいただけます。そのなかから何冊かをご紹介します。

 


『まこちゃんのおたんじょうび』

にしまきかやこ・絵と文
出版社:こぐま社
出版年:1968年

3歳のお誕生日を迎えたまこちゃんは、おじいさんから赤い帽子、おばあさんから赤いえりまき、おとうさんから赤い手袋、おかあさんから赤いブーツをプレゼントにもらいました。とってもうれしくなったまこちゃんは、お外にでかけます。「みんなに みせて こようっと」。ひよこさん、うさぎさん、ねずみくん、こぐまちゃん、次々に出会った動物たちに、もらったばかりのプレゼントを貸してあげますが……。
余白を生かした画面に、いきおいのあるラフなタッチの線で物語が描かれています。輪郭線はオークル、ポイントにピンクが使われ、まこちゃんがおたんじょうびにもらったプレゼントの赤のあざやかさをひきたてます。子どもを慈しむ家族の愛情と、他者を思いやるまこちゃんと動物たちのやさしい気持ちが重なり、あたたかな余韻が残ります。

 

『きんぎょのトトとそらのくも』

にしまきかやこ・絵と文
出版社:こぐま社
出版年:1970年

ひとりぼっちで金魚鉢のなかにくらす金魚のトトは、毎日、窓の外に広がる空を眺めていました。金魚の形をした雲を見つけたトトは、空へ行ってみたくなります。小鳥が赤い風船を持ってきて、トトは浮かびあがり、ついに窓の外へと出ていきます。
表紙に描かれているのは、体に風船をつけて空を「泳ぐ」トトの姿です。その唐突な姿と、くったくのない表情に惹かれ、物語の世界へと誘われます。小さなトトと大きな空、そして、トトの鮮やかな赤と空や水の薄いグリーンが快いコントラストをつくります。窮屈な日常から解き放たれて、トトといっしょに空を泳ぎませんか。

 


『ちいさなきいろいかさ』

西巻茅子・絵 森比左志・作
出版社:金の星社
出版年:1971年

なっちゃんがお母さんに買ってもらった、ちいさな黄色い傘。雨降りのなか、なっちゃんは、出会う動物たちを、次々に傘のなかに入れてあげます。うさぎさん、りすくんは、なっちゃんよりもちいさいので、いっしょに入れます。続いて現れたのは、胴長のダックスフント、大きなバクの親子、背の高いキリン……。さあ、みんな傘のなかに入ることはできるでしょうか?
ひと雨の間の出来事を、「あのね あのね いいこと あったの」となっちゃんがお母さんに話す場面でこの絵本は終わります。子どもが描いたようにシンプルなクレヨンの線や、デフォルメされた動物たち、カラフルな線で縁取られた見開きから、少女がお母さんにお話をしながら描いた絵から出来上がった絵本のように感じられます。第18回産経児童出版文化賞受賞作品。

 

『ゆっくりくまさん』

森比左志・作 西巻茅子・絵
出版社:福音館書店
出版年:1974年

ゆっくりやまのゆっくりくまさんが、ゆっくりやってきます。歌いながらゆっくり食べ物を探しますが、素早いほかの動物たちにいつも先を越されてしまいます。行き止まりの川まで行きついたくまさんは、向こう岸においしそうな山ぶどうがたくさんあることに気づきます。ほかの動物たちは、流れが速いから渡れっこないと、とっくに諦めていました。しばらく考えていたくまさんは、ゆっくりゆっくり、大きな石を川に運んでいきます。くまさんは何を思いついたのでしょうか?
山が実りで満たされる秋の風景を、西巻は温かみのある黄色の背景と大胆な筆のタッチで表しています。忙しい毎日に、つい「早くして!」と言ってしまう方は多いかもしれませんが、この絵本を読んだ後に、あなたなら、ゆっくりくまさんにどんな声をかけますか? ピンクの頬とのんびりした表情のくまさんに、大人の方にこそ出会ってほしい一冊です。

 

『ふんふん なんだかいいにおい』

にしまきかやこ・えとぶん
出版社:こぐま社
出版年:1977年

さっちゃんは急いで朝ごはんを食べたので、口のまわりにはたまご、手にはジャム、エプロンにはスープのしみがついています。そしてその姿で野原に向かって走っていきます。すると、キツネが「ふんふん なんだかいいにおいがする」と、さっちゃんをとおせんぼします。「とまれ!おまえはめだまやきだな」。さあ、さっちゃんは、なんと答えるでしょうか。
意外なストーリーは、西巻さんが子育ての最中に自分の子どもたちに絵本を読んだり、自作のお話をきかせたりするなかで特に好評で、何度もせがまれたものを書きとめ、それを発展させたものです。西巻さんらしい勢いのある線で描かれた背景と、どこか不思議な動物たち。多くない色の組み合わせで、春の陽気とさっちゃんの心のあたたかさがぐっと伝わってきます。

 

『かえりみち』

あまんきみこ・文 にしまきかやこ・絵
出版社:童心社
出版年:1979年

表紙には、十字路と、それぞれの道をあるいていく動物たちと少女。さて、どんなおはなしなのかな、と思わせます。のはらでまいごになった女の子。そこに、こぎつねがやってきて、いっしょに家への帰り道を探してくれます。そのかえりみち、今度はこぎつねが、まいごになってしまいます。そこにやってきたのはこぐま。「このみちかな あのみちかな」、といっしょに道をさがします…。なにげないことのくりかえしが、さまざまな道と、風景を背景に続いていきます。まいごになって泣いていても、手をつないでいっしょに歩いて、家が見えたときにはだれもが笑顔に。登場人物(動物)たちの住む野原の昼と夜が、それぞれ前見返しと後ろ見返しに描かれていて、時の流れも感じられます。

 

『えのすきなねこさん』

にしまきかやこ・作
出版社:童心社
出版年:1986年

ねこさんはアトリエで朝から晩まで絵を描き続けています。訪ねてくる友だちのキツネやサルに、「絵を描くのは何の役に立つの」と言われても、気にせずに描き続けます。ある雨の日、友だちは、何もすることがなくて、ねこさんの描く絵を見よう、とアトリエを初めて訪ねます。そこで見た絵は?
「絵を描くということは何だろう?」と西巻がずっと考えていたときにできた絵本といいます。西巻は大好きなミロの画集をならべて、主人公のネコさんにミロみたいな絵を描かせるのが楽しかった、と語っています。講談社出版文化賞受賞作品。


『あいうえおはよう』

にしまきかやこ 作・絵
出版社:こぐま社
出版年:2003年

「あいうえ おはよう」のことばで三つ子の子ぶたが目を覚まします。子ぶたたちはそれぞれすてきな柄の服を着て、遊びに出かけていきます。「さしすせ そろって」「たちつて とんだ」先には、泥んこの水たまりがありました。勢いよく飛び込んだ子ぶたたちはどのような姿になったでしょうか?
子ぶたたちが元気に動き回るようすや地面、草木、五十音にのって進むことばは、すべて色とりどりのアップリケと刺繍によって表されています。「らららん りりりん るる れれ ろん」と、声に出して読みたくなる楽しい絵本です。

 

『ぞうさん』

まど みちお・詩
出版社:こぐま社
出版年:2016年

まど・みちおの代表作ともいえる詩に絵をつけた絵本。長くない詩の一行ごとに1場面が割り当てられており、ページごとに背景の色がすべて違います。アクリル水彩絵の具を混ぜずにそのまま使ったという背景の色と、輪郭の青紫色との組み合わせ、そしてぞうの愛らしさが目を惹きます。西巻は、いい詩に絵をつけたらきっとよい絵本になると思っていた、と語っています。