「装いの翼展」学芸員による見どころ紹介②ちひろ:戦後復興期の新たなライフスタイル

行司千絵著『装いの翼 おしゃれと表現と―いわさきちひろ、茨木のり子、岡上淑子』(岩波書店)では、3人の女性作家の人生と表現とともに、日本の戦前から戦後にかけての女性の装いの歴史にも触れられています。いわさきちひろの章では、百貨店を中心に、カジュアル・ファッションの文化が育まれていく過程の記述もあります。この書籍を起点とした本展では、いわさきちひろが手がけた百貨店のポスターを展示しています。

いわさきちひろ 伊勢丹広告 1950年代前半

1952年まで続いた進駐軍による接収が解かれると、東京の百貨店を中心に、都市の文化が本格的に復興し、新しいライフスタイルが提案されるようになりました。ちひろは、百貨店・伊勢丹のポスターを手がけ、クリスマス・プレゼントを買いに向かう洒脱な親子の姿を描いています。

当時の伊勢丹宣伝課には、後にグラフィックデザイナーや絵本作家としても活躍する堀内誠一が在籍して腕をふるっていました。ちひろは、伊勢丹のPR誌『伊勢丹ブーケ』にも、挿し絵を描いています。

『伊勢丹ブーケ』12号 伊勢丹 1953年

誌面には、ファッション写真とともに、日本のスキーの先駆者・猪谷六合雄(いがやくにお)によるアメリカのスキー場の紹介や、子ども向けの家具の紹介など、豊かで洗練されたライフスタイルを提唱する記事が並んでいます。ちひろの絵筆は新しい時代のイメージを彩りました。

私生活では、1951年、32歳のときに、ひとり息子の猛をもうけ、翌年、東京都練馬区下石神井(現・ちひろ美術館・東京所在地)に家族3人でくらす家を建てています。

ちひろと夫・善明、ひとり息子の猛 東京都練馬区下石神井の自宅にて 1952年7月

自身が築いた家庭に重ねて、ちひろは夢と希望に満ちた子どもたちのいる情景を広告のほか、絵雑誌や絵本のなかにいきいきととらえています。

▽開催中の展覧会:2025年10月31日(金)~2026年2月1日(日)
装いの翼 いわさきちひろ、茨木のり子、岡上淑子