2008.9.26 /[表紙の作品]いわさきちひろ 「美登利」 1971年 『たけくらべ』より

「廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お歯ぐろ溝に燈火うつる三階の騒ぎも手に取る如く……」の名文から始まる『たけくらべ』。ちひろは、この作
品を愛し、日本の文学の中でも優れた青春文学のひとつだと語っていたといいます。
ちひろの描いた『たけくらべ』の特徴は、明治の下町情緒や風物詩の描写に加え、登場する人物にも焦点を当て、心情まで繊細に描き込んでいることです。主人
公・美登利の横顔は、鼻がつんと上を向き、口は堅く閉じていて、瞳はどこか憂いを帯びつつも前を見据えています。勝気で多感、そして芯の強さを秘めた少女
であることが、表情から読み取れます。