ユゼフ・ヴィルコン(ポーランド) 画家の自画像 1993年

ユゼフ・ヴィルコン(ポーランド) 画家の自画像 1993年

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96才、画家。ユゼフ・ヴィルコン。
―ポーランドの巨匠―

ユゼフ・ヴィルコンは、1959年以来、現在までに200冊近くの絵本を手がけてきました。
その個性的で芸術性の高いイラストレーションはポーランド国外の出版社の目に早くからとまり、1960年代以降ドイツやフランスの出版社から絵本が次々と出版されました。日本でも1970年代以降、30冊以上の翻訳絵本が出版されています。
海外での知名度の方が高かったヴィルコンですが、2000年代以降はポーランド国内でも復刊や出版が続き、2006年にはワルシャワの国立美術館において大規模な展覧会が開催され、まさにポーランドの巨匠といえます。(図1)

図1 ユゼフ・ヴィルコン ©Bogdan Sarwińsk

図1 ユゼフ・ヴィルコン ©Bogdan Sarwińsk

本展は、2001年に開催した「ユゼフ・ヴィルコンの世界~音を奏でる色とかたち~」以来、安曇野ちひろ美術館では25年ぶりの個展となります。当館の所蔵する、ヴィルコンの作品約130点のなかから、約90点を技法の変遷に注目して紹介します。

液体の実験

ヴィルコンは自らの画業を、その技法から、いくつかの時期に分けられると説明しています。その最初となるのが、1957年から1963年にかけての「液体の実験」の時期です。フランスを中心に、ヨーロッパの美術界で1950年代に起こった、タシスム※などの表現に関心をしめした彼は、絵本のイラストレーションにその手法を取り入れます。
『あるクジャクの冒険』(図2)では、羽根の模様が細かい絵の具の染みや広がりであらわされており、水彩絵の具の「実験」をしていることがうかがえます。

図2 『あるくじゃくの冒険』より 1963年

図2 『あるくじゃくの冒険』より 1963年

日本の絵画にも影響を受けたと語るヴィルコンは、水彩の濃淡を生かして、奥行きを表現しています。絵本『ミンケパットさんと小鳥たち』では、カラーのページとモノクロのページが交互に使われていますが、森のなかの場面(図3)には、雪の光と木々の影のコントラストが、水墨画のような味わいを出しています。

図3 『ミンケパットさんと小鳥たち』よ り 1965年

図3 『ミンケパットさんと小鳥たち』よ
り 1965年

パステルの質感

1970年代後半からは、ヴィルコンはパステルを用い始めます。絵本『ブラウンさんのネコ』(図4)では、パステルの色の重なりによって、ブラウンさんの横に寝そべる、トラに変化していくネコのつややかな毛並みや、ベッドのあたたかさ、月夜のやわらかい光を表現しています。

図4 『ブラウンさんのネコ』より 1987年

図4 『ブラウンさんのネコ』より 1987年

子ども時代に自然豊かな環境で育ち、今も動物たちを愛するヴィルコンは、繰り返し動物を描いています。彼の苗字であるWilkoń(ヴィルコン)は、wilk(狼)とkoń(馬)という二つの動物からなっていることもあり、狼や馬には特別な想いがあるようです。どの動物に似ていると思うかと問われると、自分の鋭い目は狼の目と似ており、また、広くて大きい鼻はライオンに似ているとも語っています。『イタチの襟巻をしたトラ』では、トラ以外にも、さまざまな動物が登場しますが、そのなかのライオンは、どこか画家自身に似ています。(図5)

図5 『イタチの襟巻をしたトラ』 より 1989年

図5 『イタチの襟巻をしたトラ』
より 1989年

空間イラストレーション

ヴィルコンは、絶えず新しい表現方法を模索しながら創作を続けてきました。1996年ごろにドイツから親しい編集者とその家族が彼のアトリエを訪ねてきたときに、子どもたちと木の動物を遊び半分でつくります。後日なにげなく見直し、これを写真に撮って、絵本のイラストレーションにする「空間イラストレーション」を思いつきます。筆のかわりにノコギリを手に、犬、猫、魚、鳥などが生まれていきました。
「木材が大好きだ。柔らかく、自在に変化し、気高くもある。そして、ノコギリで切ることも、斧を振り下ろすことも。」と語るヴィルコンは、「彫刻」に出会い、制作の幅を広げます。
安曇野ちひろ美術館に常時展示され、来館者を迎えてくれる「アフリカン・ブルース」(図6)もそのひとつです。使い古した戸棚で、アフリカの生き物たちが、さまざまな楽器を演奏しています。
狩猟で追われる運命にあるサイや象などの生き物の悲しみをも伝えています。

図6 アフリカン・ブルース 1995年

図6 アフリカン・ブルース 1995年

次第に大きい動物への制作意欲がわいたヴィルコンは、ライオンやバイソンなど、実物より大きい作品も手がけています。
2006年の個展を機に制作した、「ノアの箱舟」という彼の今までで最も大きな作品(約5m×10m)は、現在ワルシャワ郊外のラジェヨヴィツェ宮殿の公園に設置されています。
冒険を続けてきたヴィルコンの作品の数々をお楽しみください。