いわさきちひろ ゆびきりをする子ども 1966年

いわさきちひろ ゆびきりをする子ども 1966年

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いわさきちひろ やさしさと美しさと

「私は私の絵本のなかで、いまの日本から失われたいろいろなやさしさや、美しさを描こうと思っています。」といわさきちひろは1972年の対談で語っています。ちひろにとって、美しさとやさしさとはどのようなものだったのでしょうか。本展では、ちひろの作品とことばを通して探ります。

子どもと自然と

「私には、どんなにどろだらけの子どもでも、ボロをまとっている子どもでも、夢をもった美しい子どもに、みえてしまうのです。」とちひろは延べ、美しく、かわいく、子どもをくり返し描きました。子どもの無垢なようす、小さくてもしっかりと感じられる生命力などを愛おしく思っていたのでしょう。それらの性質は、子どもとともにしばしば描いた草花や生きものなどにも見られます。あるときは装飾的に、あるときは子どもと同じような人格を持ったように、季節ごとの花や自然の風物がちひろの作品に登場しています(図1)。

図1 あんよはじょうず 1960年代後半

母親というやさしさ

ちひろによる母親像の数は多くはないものの、絵のなかの母親たちはどこか似ています。いずれの母親も、長い髪をふわりと後ろでまとめ、静かにやさしく微笑んでいます。それは、ちひろの母・文江のイメージが影響しているためかもしれません。「母親像を描くときも、やさしくない母親は描けないんです。」とちひろは語っていましたが、母はひとりで描かれることは少なく、子どもと寄り添って、あるいはやさしく見つめている姿が印象的です(図2)。

図2 少年と母 1970年

美しい夢

ちひろの作品には、子ども時代の情景や、まるで夢のような光景を描いたものもあります。光が差す野原のなかで舞う蝶の群れ(図3)、大きな虹のかかった空に向かって手を振る子どもたち(図4)。写実的ではない空想的な絵にも、どこか懐かしさや、ふるさとのような安心感があるのは、その色づかいや表現に、きらめきとやさしさがあるからでしょう。

図3 蝶の舞う野原 1968年

図4 「にじの はし」 1963年

絵本のやさしい世界

ちひろは、生涯に約40冊の絵本を手がけました。それらの絵本には、登場人物のもつ美しさややさしさを表現しようとしたものや、自分の少女時代の体験と重ねて子どもの繊細な心を表現したものなどがあります。
『ゆきのひのたんじょうび』(至光社)には、主人公・ちいちゃんの、友だちの誕生日と自分の誕生日のわずか2日の間で起こる心の動きが、冬の風景とともに描かれています。ちいちゃんが、誕生日に降ってほしい、と願った雪が、翌朝街一面に積もった場面には、色とりどりの家がまるでおとぎ話の世界のように並んでいます(図5)。

図5 雪の家並み『ゆきのひのたんじょうび』(至光社)より 1972年

ちひろが描き続けた美しさ、やさしさは、彼女が子どものころ、そして成長していくなかで、心動かされたものをあらわしたのかもしれません。