いろいろな国の子どもたちが主人公の絵本
今回は、「いろいろな国の子どもたちが主人公の絵本」を集めました。
パンデミックによる困難が世界的に広がる今、偏見や分断ではなく、互いを知り、理解しあうきっかけとなることを願って。
『むこうがわのあのこ』
ジャクリーン・ウッドソン・文 E.B.ルイス・絵 さくまゆみこ・訳
出版社:光村教育図書(現在、絶版)
出版年:2010年
「そのなつ まちをしきる さくが、いつもより おおきく みえた」という一文ではじまるこの絵本は、人種差別の問題を子どもの視点からとらえています。柵の向こうへ行ってはいけないといわれている黒人の少女クローバーは、柵の向こうからこちらを見ている白人の少女アニーが気になってしかたありません。やがて柵の上にすわって話すようになったふたりを、クローバーのママは「あたらしい ともだちが できたのね」と見守ります。次第にクローバーの友達も加わって、みんなで縄跳びをしたり、柵の上に腰掛けておしゃべりをして一緒に過ごすようになり、「こんな ふるい さく、そのうち だれか きて とりこわすよね」と語りあいます。ごく自然にお互いの存在を認めあっていく子どもたちの姿を、E.B.ルイスが美しい水彩で端正に描いています。黒人への不当な暴力による痛ましい事件が絶えない昨今、心の塀がとりのぞかれて、あらゆる人々が互いの人権を尊重し、信頼しあえる世界のおとずれを心から願わずにはいられません。
『チトくんとにぎやかないちば』
アティヌーケ・文 アンジェラ・ブルックスバンク・絵 さくまゆみこ・訳
出版社:徳間書店
出版年:2018年
チトくんはお母さんに背おわれて市場へやってきました。お母さんが夢中で品物を選んでいると、その背後にいるチトくんに市場の人はかわるがわる売り物を差し出してくれます。バナナを6本、オレンジを5個、おかしを4個、とうもろこしを3本、ココナッツを2個。ひとつずつ食べては「チトは にっこり。」そして、残りをお母さんの頭の上のかごにぽいっと入れていきます。まわりの大人たちからかわいがられるチトくん。後からそれを知って、「おかあさんも にっこり。」
西アフリカの市場を舞台としたこの絵本では、美しいプリントの服を身にまとった人々や、かごや袋に詰められた野菜やくだものなどが鮮やかな色彩で描かれています。背景には、市場で売り買いする大人たちと一緒に子どもたちもたくさん描かれています。髪を結ってもらう子ども、店先でお母さんとまどろむあかちゃん、おしゃべりをする女の子と男の子……。どの子も表情豊かに描かれ、おおらかで楽しそうな雰囲気が伝わってきます。
『あめだま』
ペク・ヒナ・作 長谷川義史・訳
出版社:ブロンズ新社
出版年:2018年
なかまはずれにされて、ひとり、ビー玉で遊んでいた少年、ドンドン。駄菓子屋さんで変わった色の6つのビー玉を見つけます。ところが、それはビー玉ではなく、不思議なあめだまでした。家に帰って、そのあめだまをなめてみると、ふだんは聞こえることのないさまざまな「声」が聞こえてくるのでした。韓国の絵本作家、ペク・ヒナは自身で人形やセットをつくり、それを写真に撮って絵本をつくっています。場面ごとに変化していくドンドンの豊かな表情は人形であることを忘れるほどに、惹きつけられます。細部まで緻密につくり込んだセットや映画のように凝ったライティングがさらにドラマティックな効果を生んでいます。リアルに再現された子どもの日常は国境を越えて多くの共感を得て、ペク・ヒナは2020年アストリッド・リンドグレーン賞も受賞しました。日本語版の翻訳は、絵本作家の長谷川義史が手がけており、関西のことばがより親しみを感じさせます。本作に登場する、ドンドンの大切な家族、犬のグスリは続編「ぼくは犬や」で主人公になっています。
・『アフマドのおるすばん』 フェレシュテ・ターイェルプール・作 メフルヌーシュ・マアスーミヤーン・絵 愛甲恵子・訳 ブルース・インターアクションズ 2006年
・『やんちゃなマルキーニョ』 ジラルド・作 松本乃里子・訳 2009年 静山社
・『ぼくのだいすきなケニアの村』 ケリー・クネイン・作 アナ・フアン・絵 小島希里・訳 BL出版 2007年
・『あかちゃんがやってくる』 ジョン・バーニンガム・作 ヘレン・オクセンバリー・絵 谷川俊太郎・訳 イースト・プレス 2010年
・『京劇がきえた日』 姚紅・作 中由美子・訳 童心社 2011年
・『トヤのひっこし』 イチンノロブ・ガンバートル・文 バーサンスレン・ボロルマー・絵 津田紀子・訳 福音館書店 2015年
・『いっしょにかえろう』 ハイロ・ブイトラゴ・文 ラファエル・ジョクテング・絵 宇野和美・訳 岩崎書店 2018年
・『自転車がほしい!』 マリベス・ボルツ・文 ノア・Z・ジョーンズ・絵 光村教育図書 2019年
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