アトリエの自画像「わたしのえほん」(新日本出版社)より 1968年

制作

机の前のちひろさんが側の私に、いろいろ話しかけられるときは筆が好調に進んでいる証拠です。ふと話が途切れたときのちひろさんの真剣なまなざしは画面にそそがれています。

ふたたびお会いしたとき、「何度も描き直してきたけれど、やっぱり最初のが一番良かった」といわれることもあります。

やはり制作の苦労は誰でも味わうことなのです。

よく電話で「見て欲しいのだけど」といわれてお宅に出かけましたが、側にいると描きやすいと云われるのです。私自身は傍に人が見ていると全く描けないので、このようなちひろさんが不思議に思われるのでした。

お互いにさまざまな出来事をかかえながら過ごしておりますので、話し合うことも不可能なほど複雑な心境を「私たちには絵があるから、すくわれるのね」とつぶやくように云われたのをおぼえています。

『旅といわさきちひろさんの思い出』(岩崎書店)1979年より