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【開館40周年記念 Ⅱ】<企画展>

高畑勲がつくるちひろ展 ようこそ!ちひろの絵のなかへ

古今東西の美術や文学に通じ、独自の審美眼を持ってアニメーションづくりの第一線で活躍してきた高畑勲。彼が創作のうえで深い洞察を得てきた画家のひとりが、いわさきちひろです。
本展では、高畑の視点からちひろの絵の魅力を新たに発見し、今までにない演出でちひろの絵の世界を‘体感’していただきます。

「ちひろさんは、子どもがしっかりと内面をもって懸命に生きている自立した存在であることを私たちに気づかせ、見事に子どもの「尊厳」をとらえた稀有な画家です。」高畑勲

絵本『あめのひのおるすばん』の驚き

1968年、ちひろは編集者・武市八十雄とともに、「絵本にしかできないこと」を目指し、「絵で展開する絵本」の制作に取り組みます。イメージと絵が先に生まれ、そこに短いことばをつける手法で少女の心の動きをとらえた絵本『あめのひのおるすばん』で、ちひろは新境地を切り拓きます。

高畑が初めて、ちひろの絵本に出会ったのは今から約50年前のことです。当時、高畑の長女が保育園から家に持ち帰った絵雑誌に「あめのひのおるすばん」が掲載されていました。詩のような短いことばと水彩のにじみを生かした絵で子どもの心をとらえたちひろの絵本に心を奪われたといいます。ちょうど、劇場用長編映画「太陽の王子 ホルスの大冒険」を初監督し、アニメーション表現の模索をしていた高畑にとって、ちひろのみずみずしい表現はインスピレーションの源となりました。初めてちひろの絵本を見たときの驚きは、今も高畑のなかに大事なものとして残っているといいます。本展では、絵本の絵とともに、ちひろが少女のイメージや雨の情感を探求した習作やスケッチもあわせて展示します。

カーテンにかくれる少女『あめのひのおるすばん』(至光社)より1968年

絵本『戦火のなかの子どもたち』と映画「火垂るの墓」

ベトナム戦争が激化するさなか、ちひろは戦火にさらされるベトナムの子どもに思いを寄せて、絵本『戦火のなかの子どもたち』に取り組みました。体調を崩し入退院を繰り返しながらも、1年半を費やして習作を含む44点の作品を描き上げました。
折に触れてこの絵本を開くという高畑は、自身の戦争体験に重ねて次のように語っています。

「僕は、この絵本をはじめて見たとき、描かれた子どもたちが、まさにあのときの自分だ、姉だ、と思わずにはいられなかった。11歳と9歳の私たち姉弟は、1945年6月29日、岡山空襲の火の中を逃げまどい、傷つき、黒い雨に打たれながら余熱さめやらぬ朝の焼け跡にたたずんでいたのだった。」

焼け跡の姉弟『戦火のなかの子どもたち』(岩崎書店)より 1973年

高畑は、映画「火垂るの墓」(野坂昭如原作1988年公開)を監督するにあたり、若い制作スタッフにちひろの絵本『戦火のなかの子どもたち』を見せて、想像力を高めてもらい、迫真の表現を追求しました。高畑のことばとともに絵本の場面から焦土を想像すれば、戦争の虚しさと平和の尊さが響いてきます。

今回の展覧会では、高畑の監修のもと、『戦火のなかの子どもたち』の絵をトリミングなしで展示します。ちひろの創作の現場の臨場感を体感してください。

絵のなかに入る

高畑は、近作「かぐや姫の物語」(2013年公開)で、あえてラフなタッチで余白を残し、線描をとおして観客の想像力や記憶を呼び覚まそうとしたといいます。克明な描写で画面を埋め尽くし、本物らしさを押し付けるのではなく、見る人の心にイメージを喚起させる手法で、アニメーションでしか実現できない生き生きとした表現を実現します。

高畑が自身の映画づくりに引き寄せて深く共感しているのが、ちひろの「引き算の表現」です。ちひろの絵は、対象を的確にとらえながらも、想像力に訴える部分が残されているからこそ、見る人は、そのなかに入っていきたくなるのだといいます。

落がきをする子ども『となりにきたこ』(至光社)より 1970年

絵を拡大する

小さな絵をスクリーンに拡大して投影するアニメーションに取り組んできた高畑は、かねてより、絵を拡大することで見えてくる豊かさについて語ってきました。絵を拡大すると、小さな絵のなかに閉じ込められていた絵の具のにじみや紙の質感、線の勢いなどの魅力が増幅されて見えてくるといいます。

今回の展覧会では、ちひろの絵を最大約6.6倍の壁画のような大きさに高精細に拡大して展示します。

小犬と雨の日の子どもたち 1967年(この絵を約6倍の大きさ:H1979×W2025mmで高精細に拡大して展示します)

本展をとおして、ちひろの絵の魅力とともに、絵を見ることの楽しさを実感してください。

拡大したちひろの絵と高畑勲 安曇野ちひろ美術館の展示室にて

高畑 勲 

Isao Takahata アニメーション映画監督

1935年三重県生まれ。東京大学仏文科卒。東映動画(現・東映アニメーション)などを経て、1985年、宮崎駿らとスタジオジブリを設立。主な監督・演出作品にTVシリーズ「アルプスの少女ハイジ」「母をたずねて三千里」「赤毛のアン」、映画「じゃりん子チエ」「セロ弾きのゴーシュ」「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」「ホーホケキョとなりの山田くん」「柳川掘割物語」「かぐや姫の物語」など。そのほか「王と鳥」など海外アニメーションの日本語版翻訳・監修や『十二世紀のアニメーション』『アニメーション、折りにふれて』など著作多数。

開館40周年・20周年イベント

開館40周年・20周年記念対談
高畑勲(アニメーション映画監督)×奈良美智(美術作家)

いわさきちひろ展と茂田井武展をつくるふたりが、当館の開館40周年、安曇野ちひろ美術館の開館20周年を記念して、夢の対談を行います。
日 時:8月30日(水)19:00~20:30(予定)
会 場:紀伊国屋サザンシアター
チケット発売開始:7月初旬(予定)