ル・カイン アラジンと魔法のランプ

エロール・ル・カイン(イギリス)『アラジンと魔法のランプ』より 1981年

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ちひろ美術館コレクション 絵本で楽しむ装い

ちひろ美術館では、いわさきちひろをはじめとする日本の絵本画家の作品のほか、欧米、アジア、東欧やロシア、南米やアフリカなど34の国と地域、207名の画家の作品約27,200点を収蔵しています。本展では、「キッズファッション」「装う動物」「物語のなかの装い」の3つのテーマから、絵本に描かれたさまざまな装いを紹介します。

キッズファッション

大人顔負けの美しい衣装に身を包んだ子どもたちの愛らしい姿は、わたしたちの眼を楽しませてくれます。洋の東西を問わず、絵本のなかに描かれたおしゃれな子どもの姿には、子どもの個性と子どもの文化を大切に想う画家のまなざしが感じられます。

花束を運ぶ子どもたち

ケイト・グリーナウェイ(イギリス) 花束を運ぶ子どもたち 1876年頃

日本では、大正から昭和の初めに童話・童謡・童画の運動とともに花開いた絵雑誌に岡本帰一や清水良雄らが当時の最先端の流行を映した洋装の子どもたちを描きました。プリーツやリボンをあしらったワンピースやカラフルなプリントの洋服は、今見ても新鮮なファッションセンスが感じられ、当時の母親と子どもの憧れを誘いました。いわさきちひろも童画に夢を重ねた子どものひとりでした。

装う動物

寓話や昔話のなかに出てくる動物をはじめ、絵本のなかには擬人化された動物が数多く登場します。装う動物たちの姿からは、人間の行動様式や性格をパロディ化した痛快なユーモアが感じらます。
ロシアの画家、エフゲーニー・ラチョフは、昔話に出てくる動物に衣装を着せて、人間社会の風刺をしています。『てぶくろ』に登場する雌のきつねは、ウクライナ地方の民族衣装で、祝日用の晴れ着を着ています。その衣装と表情からは、虚栄心や狡猾(こうかつ)さが感じられ、雪が降りしきる森のなかで場違いなおしゃれをしたきつねの滑稽(こっけい)さが際立っています。

ラチョフ てぶくろより

エフゲーニー・ラチョフ(ロシア)『てぶくろ』より 1950年

物語のなかの装い

物語絵本のなかには、ファンタジーの世界へ誘う壮麗な衣装や、世界各国の気候や風土と文化に育まれてきた民族衣装などバラエティ豊かな装いが見られます。

ル・カイン アラジンと魔法のランプ

エロール・ル・カイン(イギリス)『アラジンと魔法のランプ』より 1981年

イギリスの画家、エロール・ル・カインは『アラジンと魔法のランプ』に出てくる姫の衣装を実際の王族の衣装ではなく、どこの国のものとも特定できない装飾性を用いて異国情趣たっぷりに誇張して描いています。大きな羽根飾りのついたヘッドドレス、あらわな上半身の上腕部だけにまとった装身具、金のイヤリングや腕輪、香炉から立ち昇る煙と呼応するように描かれた房飾りのついたたっぷりとした腰布……。これらをまとった美しい姫が、孔雀の羽根を図案化した枠のなかに描かれています。つくり込まれた舞台の一場面さながらに、見る人を馥郁(ふくいく)たる物語の世界へと誘います。
16か国29人の画家による約45点の作品から、絵本ならではの装いをお楽しみください。