いわさきちひろ 窓辺の小鳥と少女『ことりのくるひ』(至光社)より 1971年

いわさきちひろ 窓辺の小鳥と少女『ことりのくるひ』(至光社)より 1971年

-

ちひろ いつもとなりに
―子どもと動物―

ちひろは、身近にいる子どもや動物をやさしいまなざしで見つめ、描き続けました。本展では、動物とふれあう子どもたちが描かれた作品を、ちひろの動物にまつわる思い出とともに紹介します。

子どもによりそう動物たち

1950年代から1960年代半ば、ちひろは絵雑誌を中心に活躍しました。この時期に描かれた作品には、子どもと動物の日常をテーマにしたものが多くあります。犬といっしょに散歩をしたり(図1)、家で猫と留守番をしたり。子どもが、相棒のような動物と過ごすしあわせな時間が、あたたかな色彩で表現されています。

図1 「りこうな いぬだから」 1963年

動物との思い出

幼いころから、ちひろのそばには動物がいました。少女時代のちひろは「もっと猫の意思を尊重してあげなさい」と妹に注意するほど、飼い猫をかわいがっていたといいます。猫の生態を近くで観察した経験は、のちの作品にも活きています。たとえば、《暖炉の前で猫を抱く少女》(図2)に描かれた猫は、岩崎家の黒猫「おさき」がモデルとされています。女の子のセーターに爪をたて、画面手前の毛糸玉をじっと見る表情はユーモラスでかわいらしく、親しみが感じられます。

図2 暖炉の前で猫を抱く少女 1971年

ひとり息子が生まれた翌年の1952年、ちひろは東京・練馬に家を建てます。亡くなるまでの22年間を過ごしたこの場所で、ちひろはさまざまな犬と暮らしました。そのなかで最も長生きしたのがチロです。夫・善明がもらってきた、この白い雑種犬を、ちひろは溺愛しました。アルバムに残された写真には、アトリエや庭で家族とくつろぐチロのようすが収められています(図3)。

図3 いわさきちひろと愛犬チロ アトリエにて 1971年

チロと過ごした日々は、ちひろの作品にも反映されています。絵本『ぽちのきたうみ』では、おばあちゃんの家で夏休みを過ごす少女が、愛犬ぽちの到着をまちわびるようすが描かれています。少女と小犬がじゃれあう姿を大胆な筆づかいでとらえた絵からは、ちひろが日常的に犬の動きを観察していたことがうかがえます(図4)。

図4 少女と小犬Ⅰ 『ぽちのきたうみ』(至光社)より 1973年

熱海に逗留してこの絵本をつくったちひろは、チロを練馬の自宅に置いていかなければなりませんでした。「ポチの絵を描きながら、私はときどき家にまっている14歳の白い老犬のことを思い出しておりました」ということばからも、ちひろがチロに注いだ愛情が伝わってきます。

ちひろと小鳥

絵本『ことりのくるひ』では、「小鳥がほしい」という思いが芽生えた少女の心情が、余白を活かした絵と短い文で展開されています。物語の最後、逃してあげた小鳥がなかまを連れてやってくる場面で、ちひろは小鳥と少女が見つめあうようすを、やわらかな筆致で描きました(図5)。桃色に染まった少女の頬から、小鳥と再会できたよろこびが感じられます。

いわさきちひろ 窓辺の小鳥と少女『ことりのくるひ』(至光社)より 1971年

図5 窓辺の小鳥と少女『ことりのくるひ』(至光社)より 1971年

この絵本は、至光社の編集者・武市八十雄氏が、自宅の窓辺に飛んでくる野鳥の話をちひろに語ったことから構想が練られました。ちひろの家にも、同じように野鳥がおとずれることがあったといいます。鳥が飛んでくると、ちひろは仕事の筆を休めて、飛び立つまでのようすをじっとながめていたそうです。小鳥と心を通わせる少女に、ちひろは自身の姿を重ね合わせたのかもしれません。
『ことりのくるひ』で小鳥の描写に自信を得たちひろは、1971年から晩年にかけて、小鳥を描いた秀作を次々に生み出しました。展示室4では、小鳥をモチーフにした代表作(図6)やカットを多数紹介し、ちひろが描く鳥たちの魅力に迫ります。

図6 海辺の小鳥 1972年

*展示室4では、ピエゾグラフ作品を展示します。

展覧会の見どころ

子どもによりそう、やさしい動物たち
気がつくといつもそばにいてくれる身近な動物たちは、子どもにとって相棒のような存在。本展では、子どもと動物のおだやかな日常を描いた中期童画を中心に、「子どものしあわせ」の表紙絵や、初公開作品を含む「こどものせかい」の原画を展示します。また、ちひろの後期の代表作のなかから、動物と子どもの情景をとらえた作品を紹介します。

いわさきちひろ 「はる」 1958年(初公開作品)

いわさきちひろ 猫を抱く少女と犬を見る少年 1964年

いわさきちひろ 「もうすぐはる」 1964年

ちひろが愛した動物たちを紹介!
「動物を描こうと思うときは、まず犬、それも家にいる雑種の犬、つぎは猫」と語ったちひろのそばには、いつも動物がいました。娘時代に飼った猫のオバーモや、アトリエにいつもいたという愛犬のチロなど、ちひろの歴代のペットを写真資料も交えて紹介します。

いわさきちひろと愛犬チロ アトリエにて 1971年

絵本のなかの鳥たちに注目
絵本『ことりのくるひ』(至光社 1971 年)をはじめ、『つるのおんがえし』(偕成社 1966 年)や『青い鳥』(世界文化社 1969 年)など、ちひろはさまざまな作品のなかで鳥を描いています。本展では、作中に描かれた鳥たちの姿に注目し、その魅力に迫ります。

いわさきちひろ 夜の国で青い鳥をつかまえるチルチルとミチル『青い鳥』(世界文化社)より 1969年