チェコとスロヴァキアの絵本

三つの金の鍵 : 魔法のプラハ
『三つの金の鍵 : 魔法のプラハ』
ピーター・シス・作 柴田元幸・訳

出版社:BL出版
出版年:2005年

子どもの頃過ごしたチェコの古都プラハに迷い込んだ「ぼく」は、3つの南京錠のかかった我が家の鍵を手に入れるため、猫に導かれ、石造りのプラハの街を進んでゆきます。本棚から出てくる図書館員、宮廷に住む植物の皇帝、時計台の機械じかけの男爵に古い巻紙を渡され、そこに書かれた古くから伝わる物語を読み終えるたびに、「ぼく」は鍵をひとつ手に入れます。クリスマス、夏休み、五月祭・・・・・・、子ども時代の記憶をたどりつつ、3つの鍵を手に入れた「ぼく」は、懐かしい我が家に戻ります。
チェコに生まれ、現在ニューヨークで活躍するピーター・シスが、幼い娘のために描いた絵本。中世の街並が今もそのままの姿で残るプラハを、独特の緻密なタッチで描き出しています。浮かび上がる不気味な顔や生き物や「ぼく」を先導する黒猫、3つの鍵、といった魔法の雰囲気に満ちたシスの絵と「ぼく」の独白が不思議な世界をつくりあげています。


世界図絵
『世界図絵』
J.A.コメニウス・著 井ノ口淳三・訳

出版社:平凡社
出版年:1995年

いわゆる絵本ではありませんが、近代の子どものための本の始まりであり、絵入りの教科書ともいえる書籍です。チェコのモラヴィア地方出身の教育思想家、神学者のコメニウスが、1658年に初版を編みました。
木版画による挿絵に番号がふってあり、それぞれの事物をわかりやすく説明しています。「水」「雲」といった自然現象から「仕立て屋」「印刷術」「結婚」と人々の暮らしにいたるまで、実に様々な項目が列挙されています。「頭は上、足は下です。首の前側はのど、後ろ側はうなじです。」といったように、現代の私たちが読むとちょっと笑ってしまう項目や、「節制」の「大酒飲みは酔っ払って、ぐらつき、吐き戻し、けんかをします。」というように、およそ子どもむけにはふさわしくないような項目も。
17世紀という「子ども」あるいは「子どもの教育」という概念がまだまだ希薄な時代、コメニウスが子どもを読者として意図したこの書籍の意義は大変大きいといえます。


もりのおとぶくろ
『もりのおとぶくろ』
わたりむつこ・作 でくねいく・絵

出版社:のら書店
出版年:2010年

うさぎ街に住む仲良し四兄妹は、足にけがをして歩けなくなったおばあちゃんをお見舞いに行ったこうさぎたちは、何とか元気づけようと、おばあちゃんが聞きたいという森の音を探しにでかけます。
タイトルを見て、「おとぶくろ」って何?と思ったのは私だけではないでしょう。それは、読んでのお楽しみ。さやさや そよそよ 風のおと・・・。しょろろん しょろろん 水のおと・・・。おばあちゃんの聞きたかった森の音は、街ではもう聞くことができなくなった自然そのものです。
チェコの古都プラハに暮らす出久根育の絵は、日ごろから散策している林や森の様子や空気を、やさしいタッチで伝えています。うさぎの姿は秀逸。少し前のチェコのグラフィック・デザインの影響も見せながら、出久根らしい細やかな描写が魅力的です。


まるきのヤンコ-スロバキアの昔話
『まるきのヤンコ-スロバキアの昔話』
洞野志保・再話/絵

出版社:福音館書店
出版年:2010年11月号こどものとも年中

昔々、子どものいない夫婦が暮らしていました。子どもがさずからないなら、と木で子どもを彫り、揺りかごに寝かせたところ、奥さんの子守歌とともに、子どもは本物の子どもとなり、とびだします。ヤンコと名づけられたこの男の子は、ある日森で魔女にさらわれて、閉じ込められてしまいますが、ヤンコは知恵と勇気をもって逃げ出します。
色が多層に重なりあい、森の暗さ、夕焼けの空を見事に表現しています。大胆な構図はストーリーとあいまって読者を昔話の魅力的な世界へいざないます。

ちひろ この1冊

ちひろ 秋の画集
『ちひろ 秋の画集』

出版社:講談社
出版年:2010年

この秋、ちひろの季節の画集が刊行されます。その第一弾が『ちひろ 秋の画集』。
たわわに実る真っ赤な柿、秋の夕暮れのなか遊ぶ子どもたち、色づく木の葉……、
ちひろが秋という季節をすくいあげ、描いた作品の数々が掲載されています。
かぜ どこから ふくの ふゆ どこからくるの あき どこへいくの (いわさきちひろ1968年)
ところどころに添えられたちひろや息子の猛の言葉がアクセントとなり、詩画集を読むように楽しめる1冊です。

  • 『いそっぷのおはなし』 木坂涼・再話 降矢なな・絵 グランまま社 2009年
  • 『マッチ売りの少女』 ハンス・クリスチャン・アンデルセン・文 クヴィエタ・パツォウスカー・絵 掛川恭子・訳 ほるぷ出版 2006年
  • 『12の月たち』 ボジェナ・ニェムツォヴァー・再話 出久根育・絵 偕成社 2008年
  • 『12月くんの友だちめぐり』 ミーシャ・ダミヤン・文 ドゥシャン・カーライ・絵 矢川澄子・訳 西村書店 2010年
  • 『ふしぎな庭』 イージー・トゥルンカ・絵 井出ひろこ・訳 ほるぷ出版 1979年
  • 『五人の勇士』 ヴァーツラウ・シュプラタ・文 橋本ダナ・大西智子・訳 ローベルト・ブルン・絵 大島町絵本文化振興財団 1996年
  • 『こいぬとこねこは愉快な仲間』 ヨゼフ・チェペック・作 いぬいとみこ・井出弘子・訳 河出書房新書 1996年
  • 『マシュリカの旅』『はだかの王さま』 リブシェ・パレチコヴァー・作 ヨゼフ・パレチェク・絵 編集工房くう 2005年
  • 『かあさんねずみがおかゆをつくった チェコのわらべうた』 ヘレナ・ズマトリーコバー・絵 いでひろこ・訳 福音館書店 1984年
  • 『白いお姫さま:チェコの民話』 マリア・ジェリチェコワ・文 ミロスラフ・ツパール・絵 中村祐子他・訳 新読書社 1992年
  • 『動物たちのおしゃべり』 山崎陽子・著 ミルコ・ハナアク・絵 小池書院 1997年
  • 『もぐらとずぼん』 エドアルド・ペチシカ・文 ズデネック・ミレル・絵 うちだりさこ・訳 福音館書店 1967年
  • 『りんごのき』 世界傑作絵本シリーズ・チェコの絵本 エドアルド・ペチシカ・文 うちだりさこ・訳 ヘレナ・ズマトリコバー・絵 福音館書店 1972年
  • 『きつねものがたり』 ヨゼフ・ラダ・作/絵 内田莉莎子・訳 福音館書店 1966年