建物でめぐる美術館

たてものを見に来ました」と来館される方も多い、ちひろ美術館・東京は、いわさきちひろが晩年の22年間を過ごした自宅兼アトリエ跡にあります(設計:内藤廣)。

1977年に誕生したちひろ美術館は、2002年に現在の建物にリニューアルしました。旧館の記憶を受け継いだ4つの空間は、さまざまな角度を持ちながら「ひとつ」の建物を構成しています。限られた敷地に建物が庭へ面してオープンであることを可能にしているのは、構造にさまざまな工夫が凝らされているためです。
そのひとつが、建物を支える構造体を耐火塗装で仕上げ、覆い隠すことなく見せている十字柱にあります。サッシとの取り合いには、高い精度が要求され、非常に高度な技術が用いられています。強固でありながら繊細でやわらかな印象を与えるこの建物は、ほかにも、壁面のコンクリートに木目を写す工程が施され、居心地のよいぬくもりを感じさせます。

ちひろの家を訪れたような親密さと、くつろぎを感じるちひろ美術館・東京。日暮れの早いこれからの季節には、ライトの陰影に浮かぶ美術館をご覧いただけます(照明:面出薫)。

◆2003年 第45回BCS(建築業協会)賞受賞
◆2020年 第1回日本博物館協会賞受賞
美術館HP2020.5.11
https://chihiro.jp/foundation/news/35671/

(K.R.)

エントランスを入ると、ガラス壁面から中庭と、その向こうの展示室までが透かし見える開放的な空間が広がります。また、この床は、アメリカのイリノイ州にあった築100年以上のバーボン工場から解体されたナラ材「アンティーク・オーク」が使われ、建築のテーマである「記憶をつなぐ」と合致しています。