「装いの翼展」学芸員による見どころ紹介④ 茨木のり子の審美眼

行司千絵著『装いの翼 おしゃれと表現と―いわさきちひろ、茨木のり子、岡上淑子』(岩波書店、2025年)では、詩人・茨木のり子(1926~2006)の親族らの証言をもとに、おしゃれが大好きだった彼女の装いについて紹介されています。これまであまり知られていなかったのり子のプライベートの姿が浮かびあがっています。本展では、のり子の詩とともに、愛用の洋服やアクセサリーなどを展示しています。

のり子の詩《端午》*1では、可愛がっていた甥への細やかな愛情とともに、おしゃれが好きだったのり子自身の姿を垣間見ることができます。

端午 初出/同人誌『櫂14』1966年9月『茨木のり子詩集(現代詩文庫20)』(思潮社)1969年

自身を絵本のなかに出てくる「裸の王様」となぞらえた次のような描写があります。

おしゃれで仮縫いにうるさいところは似ている
洋服を沢山ほしがるところも似ている
それに第一 詩なぞを書いて 何かありげに
着飾っているところも似ているなあ

のり子は洋裁を研究し、自宅に設えた家事室でミシンを使って服づくりやリメイクに挑戦するとともに、専門店で洋服を仕立てたり、百貨店などで洋服を選んだりすることを楽しみました。自身のものだけではなく、勤務医だった夫の服や靴なども見立てました。その眼の確かさを表すように、エッセイのなかで「いいものは探さなくても向うから働きかけてくるという経験は今までにも沢山あって」*2とつづっています。宝石はあまり好まず、陶器のブローチや、アンティーク風のリングなど、つくり手の気配を感じさせるアクセサリーをつけていました。

茨木のり子愛用のアクセサリー(撮影:行司千絵)

展示しているイッセイミヤケのコットンのメンズシャツは、のり子が着ていたものですが、後に、甥に譲られたものです。

のり子愛用の洋服(左:イッセイミヤケ(メンズ)のシャツ/右:ヘルノのスーツ)

高品質なイタリアのブランド、ヘルノのシルクウールのスーツのサイズはもともと42(日本のサイズで11号に相当)でしたが、現在は、のり子と親しかった甥の妻が、形見分けで譲り受けリサイズして大切に着ています。
肌ざわりの良い素材を好み、身体をしめつける服や、制服を思わせるような装いは避けていたといいます。
のり子が残したことばと同様に、愛用の品には彼女のゆるぎない審美眼が感じられます。

茨木のり子 ワンピースにクロッシェを合わせた装いで 1956年

*1 初出/同人誌『櫂14』1966年9月 『茨木のり子詩集(現代詩文庫20)』(思潮社)1969年より
*2 茨木のり子「ものに会う ひとに会う」『別冊太陽 日本のこころ58 韓国の民藝探訪』(平凡社)1987年より

▽開催中の展覧会:2025年10月31日(金)~2026年2月1日(日)
装いの翼 いわさきちひろ、茨木のり子、岡上淑子