絵本でつなぐ「へいわ」のメッセージ:「お父さん、水を一ぱいちょうだい。」

父はそこからすぐ、十日市町に勤労奉仕に行っている兄の安否をたずねに出かけた。…やっと見つけ出して、「敏雄、敏雄。お父さんだよ。わかるかい。」と問うと、嬉しそうに「うん。」と小さな声でうなずいた。そこで父は静かに母の死など家であった出来事を話したが、兄はただうなずくだけであった。しばらくすると兄が、「お父さん、水を一ぱいちょうだい。」といったので、父が少しの水を飲ませようとして口を開けてみると、口のなかまではれあがり、舌の色はもう真白になっていた。…

戦争のために尊い肉親を奪われ、家を焼かれ、そして生きる望みをさえ断ち切られた人々が、どんなに多くいることであろうか。…この姿を貴方が見られた時どんな気がしますか。戦争の結末はいつもこうしたものなのです。鋼鉄のような心を持った人でさえ、この時の広島の有様を見るならば、目をそむけずにはいられなかったでしょう。ましてその肉親を奪われた人々にとっては、百万遍の慰めの言葉も、いかなる行為も、その頬をつたわる涙を乾かすことは決してできなかったことでしょう。…

武内健二 高等学校三年生(小学六年生)より、一部抜粋
*記載は作文を書いたときの学年。( )内は、原爆投下当時の学年。

ことば:『1945年8月6日 あさ8時15分、わたしは』(童心社、2025年)より

いわさきちひろ 枯れたひまわりと子ども 1969年
Chihiro Iwasaki, Child and Withered Sunflowers, 1969

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◆絵本でつなぐ「へいわ」のメッセージ
戦後80年 ちひろと世界の絵本画家たち 絵本でつなぐ「へいわ」 の開催にあわせて、本展に寄せられた出品作家からのメッセージ、そして、広島で被爆した子どもたちのことばを、会期中、少しずつご紹介していきます。

◆開催中の展覧会:2025年7月26日(土)~10月26日(日)
戦後80年 ちひろと世界の絵本画家たち 絵本でつなぐ「へいわ」