「変な生き物」が登場する絵本

ちひろ美術館・東京では、現在
<企画展>ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ
を開催中です。 [2019年5月11日(土)~2019年7月28日(日) ]
展覧会にちなみ、「変な生き物」が登場する絵本を集めました。

 

『ゴナンとかいぶつ』

イチンノブロフ・ガンバートル・文 バーサンスレン・ボロルマー・絵 津田紀子・訳
出版社:偕成社
出版年:2013年

少年ゴナンが恐ろしい怪物マンガスに立ち向かうモンゴルの昔話。どこまでも広がる緑の草原や赤い大地、岩山の上に広がる青い空を背景に繰り広げられるこの物語は、もとは語り部により、ときに何日もかけて語られる壮大な叙事詩です。生活を脅かす自然災害を象徴するマンガスは青い体に三つ目の三つの頭を持った怪物ですがどこか愛嬌があり、子どもながらに勇敢で力強いゴナンは遊牧民の理想の姿として人々に親しみを持って語り継がれてきました。日本在住のモンゴル人画家ボロルマーは、遊牧民の暮らしや草原の風景を繊細で温かみのある画風で、またダイナミックな戦いの場面のおもしろい形の岩山や荒野に転がる石や枯草、勾玉のような文様で表した土埃がエキゾチックな雰囲気を醸し出しています。

 

『わくせいキャベジ動物図鑑』

tupera tupera・作/絵
出版社:アリス館
出版年:2016年

地球から831光年はなれた銀河の片隅にある小さな惑星“キャベジ”。野菜のキャベツにそっくりの形をしたこの惑星には、ふしぎな動物たちが住んでいます。「ケチャッブー」と鳴く“トマトン”、オスが胸をたたくと甘い香りが広がる“リンゴリラ”、ずっしりと重い体の“カバチャ”、深海に住む巨大な“ダイコンイカ”……、頁をめくるたびに、野菜とかけあわせたゆかいな動物が次々に登場します。
野菜の大きさや角度を変えた写真をコラージュして、架空の動物を形つくった図があり、その下には生態や特徴の説明が――例えば、トマトで出来た動物“トマトン”は、「夏のつよい日ざしを好むが、体温があがると水あびをして冷やしている。ミニトマトンという小さい種類もいる」などと記載されています。
野菜の色や形の印象と、動物の生態を巧みに融合させ、ユニークかつリアルにつくられた架空の動物はどれも魅力的です。舞台美術、空間デザイン、アニメーションなどさまざまな分野で活躍するtupera tuperaの洗練されたデザインセンスにより、美しく楽しい図鑑形式で展開される絵本です。

 

『とうふこぞう』

せなけいこ・作
出版社:童心社
出版年:2000年

いたずら好きのお寺の小僧は、おつかいの途中でどこかの小僧が犬に囲まれて泣いているのを見かけます。助けてやると、なんとその子どもは、おばけの「豆腐小僧」でした。友だちになった豆腐小僧は、不思議な仲間を紹介してくれます。雨の神様のつかいの雨降り小僧に、河童の子どものさら小僧……、次々と登場する不思議なおばけたち。南の国の天竺から来た小僧が見世物師に捕まっていると聞いたおばけたちは、助けに向かいますが……。
「変わった存在」が好きで、伝説や不思議な世界の物語、そして日本のおばけに凝りだしたと語る、せなけいこ。本作は、1974年から出版されている「おばけえほん」シリーズの一つで、豆腐小僧は江戸時代の草双紙から着想を得ています。姿かたちが違っていても、人間と同じように接する小僧の姿には、「おばけのような異質な存在とも仲良く同居してほしい」という作者の想いが感じられます。

 

『絵本・いつでもいっしょ1 すみっこのおばけ』

武田美穂・作/絵
出版社:ポプラ社
出版年:2000年

「ひみつをおしえてあげようか?」ぼくの秘密は、机の下に住んでいる小さなおばけと、友だちだってこと。ついたり消えたり、ちかちか光って、綿菓子みたいにふかふかで、とっても楽しいおばけ。呪文でぼくの願いをなんでもかなえてくれます。おさがりの自転車が新品になったり、クラスで一番前のぼくが背高ノッポになったり、いじめっ子に仕返ししたり……。ほかの人には見えないけれど、ぼくだけにわかる不思議な魔法です。欲しいものやなりたいものに憧れ、空想の世界に心を遊ばせた経験は誰にもあることでしょう。学校や家庭でのささいな出来事に心を悩ます主人公の男の子を、ときに励まし、笑わせてくれて、世のなかで一番の友だちといってくれるおばけの存在は、自らに問い掛け成長していく少年の、内なる心の声なのかもしれません。
武田は、ストーリーや場面展開はもちろん、キャラクターの設定、ことばのリズム、漫画のような吹き出しやコマ割りなど、楽しい工夫を施しています。机の下の暗いすみっこから飛び出し、ふたりで明るい戸外で遊び回る日を夢見るラストの場面では、それまでの暗い色調とコマ割り中心だった構成から一転、町を眼下にしながら画面いっぱいに青空が広がり、開放感にあふれています。

 

『かいぶつぞろぞろ』

辻村益朗・構成/文
出版社:福音館書店
出版年:2004年

皆さんは「かいぶつ」と聞いて、どんな生き物を思い浮かべるでしょうか?火を吹くドラゴン?角の生えたユニコーン?それとも…?昔から人々は「とくべつ強いものや大きなものにあこがれるきもち、まだしらないことやめずらしいもの、うつくしいものにであいたいきもち」を形にしてきました。例えば、頭はワシで、からだはライオン、背中には翼がある、グリフォンと呼ばれる怪物はイランやスペイン、ヨーロッパの美術作品などに登場します。
この絵本では、紀元前から20世紀までに世界で描かれた怪物を「たし算のかいぶつ」など、いくつかの項目に分けてとりあげ、巻末にはそれぞれの怪物の出典も丁寧に記されています。古今東西の怪物のかたちからは、私たち人類が抱いてきた願いや気持ちが浮かびあがってきます。

 

『いろいろ いっぱい ちきゅうの さまざまな いきもの』

二コラ・デイビス・文 エミリー・サットン・絵 越智典子・訳
出版社:ゴブリン書房
出版年:2017年

「ちきゅうには なんしゅるいの いきものが いると おもう?」さあ、あなたなら何種類と答えるでしょうか?動物のなかだけでも、イヌやネコに代表される身近な哺乳類から始まり、鳥、魚、カエル、ヘビやトカゲ、昆虫、などなど…。想像しただけでも、たくさんの種類がいそうです。空を飛ぶ鳥、深い海の底を泳ぐ魚、土のなかに潜む微生物など、見つけることが難しい環境に住む生き物もいますから、そのすべてを数えることは、容易ではないでしょう。実際、毎年新しく数千種類の生き物が見つかっているため、その正確な数は、まだだれにもわかっていないのです。
絵本に描かれている、うっそうとしたジャングルのなかで、色とりどりの生き物たちが複雑に関わり合いながら暮らすようすは、まさに「ひとつの おおきな もようを おりあげているよう」です。そして、ひとつひとつの生き物たちがおりあげたもようを、私たち人間が壊そうとしている現実を伝え、警鐘を鳴らします。「にんげんは いきていかれないよ、もしも いろいろ いっぱいいた いきものが、だんだん へっていって…とうとう、ひとつ、になったら」。食物連鎖の複雑さ、さまざまな姿かたちをとる生き物のおもしろさが、鮮やかな絵でわかりやすく描かれています。生物多様性について考えるきっかけを与えてくれる絵本です。

 

『ふしぎな いきもの』

アネリース・シュヴァルツ・ぶん クヴィエタ・パツォウスカー・え 池内紀・やく
出版社:ほるぷ出版
出版年:1990年

生き物がほしいと、リキはいいます。「やわらかで、すばしこくて、うんとつよいやつ。」お父さんとお母さんはそんな生き物はいないというけれど……。リキがベッドで寝ていると、ふしぎな生き物がやってきました。サイのような角を持ち、後ろ脚には靴を履き、頭に三角帽子をかぶって、しっぽがあって、緑色の斑点模様のある見たこともない生き物です。大きくなったり、背中に翼が生えて空を飛んだり、魚になって海にもぐったり、ページをめくるたびに、さまざまな姿に変化していきます。大冒険の末、恐ろしい怪物から逃げおおせて、リキの寝室に戻ってきた生き物は、一晩中、リキを見守ってくれました。
チェコの画家、パツォウスカーは、緑と赤を基調にした鮮やかな色彩と、場面ごとに変化に富んだ斬新な画面構成、文字や数字のコラージュなどを効果的に使い、子どもの恐怖心や、それに打ち勝つ想像力に共感して、自由な感覚でふしぎな生き物をとらえています。