画用紙にたっぷり水を含ませた上に、水彩絵の具をたらすと、色が水に溶けて広がります。ちひろはこの水彩絵の具の水に溶ける特性を生かして、独特の色調を生み出しました。実際に「ひざを抱える少年」を描いたときの手順を、残された写真から追ってみました。

ひざを抱える少年 1971年

1水を刷いた上に色をおく

スケッチブックから紙を破り取って、準備は完了。イメージをしっかりと固めてから、鉛筆で少年の輪郭線を描き、まず肌の色を塗る。次に服の部分に水を刷いてから、紫、橙、緑、赤紫の絵の具をおいて、にじませていく。
2髪を白く塗り残して、
背景に色を塗る

服に青が加えられた。色のにじみが広がっているが、まだ絵の具が乾いていないので濃くみえる。次に背景にとりかかる。服の部分は乾いていないので、頭の後ろから赤を大胆に塗り、水を加えてぼかしていく。髪は白く塗り残している。
3水でぼかす
背景に、赤や緑、青、青紫、紫、橙の絵の具をおき、水でぼかしながら広げている。水を含ませた筆で画面を洗うようにしながら、さらに色を薄め、台にしているスケッチブックごと紙を傾けて、色を流している。
4濃い色をたらし込む
背景全体に淡く色が広がった。前に塗った絵の具の水分が乾ききる前に、体の前方に濃い紫をたらし込んでいる。濃い色が淡い色のなかにじわじわと静かににじみ込んでいく。画面右上の赤の部分にも、青をたらし込んでいる。
5水分が乾くと、色が淡くみえる
絵が完成した。水分が乾き、絵の具のにじみが止まる。後からたらし込んだ紫のにじみの広がりも止まり、ふしぎな形が表れている。塗られたときには濃く感じられた色も、乾くと紙の地色の白が透けて、淡くみえてくる。

『ちひろの絵のひみつ』(講談社)より