[表紙の作品]いわさきちひろ「赤い花を持つ少女」 1969年 『あかちゃんのくるひ』(至光社)より

黄色やピンクの淡い水彩のにじみを背景に、赤い花を手にした少女がたたずんでいます。顔や手足など肌の部分にのみ彩色がほどこされ、髪や服などは紙の地を残したままです。紙の白さを生かし、また少女の周囲を明るくぼかすことで、少女を包むやわらかな光が感じられるようです。絵本『あかちゃんのくるひ』のために描かれた作品で、生まれた弟を連れて母が帰ってくる日の、少女の期待や不安といった心情を、ちひろは暖色系の色調で象徴的に表現しました。淡い色面のなかでは、鮮やかな花の赤がひときわ目をひきます。あかちゃんを迎える姉としての喜びが、一輪の花からも伝わってくるようです。