[表紙の作品]いわさきちひろ 草むらの少年 1971

草むらから少年がこちらを覗いています。画面中央を走り抜けるように描かれた線は力強く、周辺の線も含めて一気に筆を動かしたのでしょうか。絵の具のかすれは、夏の日差しのきらめきを表現しているかのようです。野性味あふれる葉の動きと、夏の情景が見事に再現されているこの作品は、ちひろの画業の後期である1971年に描かれました。1970年、ちひろはパステルを線描に用いる表現に取り組みます。その挑戦のなかでちひろは、鉛筆では表現できない大胆な筆致を手にしました。この絵は水彩で描かれていますが、パステルでつかんだ枠にとらわれない線ののびやかさが奔放な線の表現によく表れています。