イブ・スパング・オルセン『つきのぼうや』より 1962年

- - 開催中

【開館20周年記念Ⅳ】〈企画展〉
日本デンマーク国交樹立150周年

イブ・スパング・オルセンの絵本展

デンマークの画家、イブ・スパング・オルセンの展示を、今年春のちひろ美術館・東京の展示に続き、安曇野ちひろ美術館でも作品を入れ替えて開催します。
オルセンの画業は、新聞のためのイラストレーションに始まり、ポスター、アニメーション映画、壁画、切手、彫刻、舞台美術と幅広く、デンマークの人ならば、どこかで必ず彼の作品を目にしているともいわれます。特に、本は600冊近く手がけたといわれています。本展では、そのなかから絵本を中心に原画を展示、紹介します。

絵本を手がけるまで(絵本以外の仕事)

1921年、デンマークの首都コペンハーゲンのオステルブロ地区に庭師の三男として、オルセンは生まれます。彼はこの地区で過ごした少年時代を、自伝『オステルブロからきた少年』に綴っています。1932年のFrihavnen(コペンハーゲンの港)の絵には、寄港している外国船に乗り込み、デンマークのマッチと、外国のマッチを交換したいがために、初めて覚えた外国語で話す少年時代のオルセンの姿が描かれています。

『オステルブロからきた少年』より 1980年

オルセンは、その後1948年から教師として働きながら、新聞の日曜版にイラストレーションを描き続けます。最初の子どものための絵本は『5ひきのトロル』(本展未出品、邦訳版 絶版)でしたが、残酷なストーリーに、評論家には、不評だったとオルセンは後に記しています。ポスターの仕事も、オルセンが長年取り組んでいたものです。彼の政治や社会、環境への高い意識は、ポスターという大きな画面に乗って、デンマークの人々へと伝わっていきました。1998年にはデンマークポスター美術館にて彼のポスターの特別展も開催されています。「エネルギーを節約しよう」(1975年)は、そのなかでも代表作ともいわれる作品です。画面の左手前で、少女は窓越しに町を眺めながら、右手で暖房の温度を低くしようとしています。画面全体には夕暮れの町が描かれていますが、よく見ると、道の左側の建物の窓ごしに入浴している女性、屋根の上の煙突掃除夫、道路でボール遊びをする子どもたちなど、さまざまな人がいます。さらに、人々のそばには小さな手書き文字で、「お風呂よりシャワーを」「煙突はきれいに」などと、エネルギーを節約するための助言がちりばめられています。

ポスター 「エネルギーを節約しよう」 1975年

オルセンの絵本

オルセンの絵本で、日本や海外で特に知られているものに、『つきのぼうや』が挙げられるでしょう。本の縦長の判型が印象的なこの本は、もとは新聞の日曜版のために描かれたお話が始まりでした。細長い画面を切ってつなげ、両端を棒に巻きつけ、縦型の巻物のように動かして遊ぶことを想定してつくられたストーリーは、月から地上へ下り、また空へ戻っていく男の子の冒険です。縦長の画面と、青い空を背景にした黄色い月の色のコントラストが印象的なこの本は、リトグラフの一種であるヘリオグラフィーという手法によってつくられ、色は印刷の段階でつけられために、原画はモノクロの線だけがフィルムに描かれたものです。少し揺れのある、オルセン独特の線は確実なデッサン力に支えられています。

『つきのぼうや』より 1962年(左:原画 右:絵本)

デンマークの自然と、オルセンのユーモアが生んだ傑作ともいえる絵本が『ぬまばばさまのさけづくり』です。『つきのぼうや』同様、最初は新聞に発表されたものが、後年絵本化されました。夏の夜に、沼地からもやが立ち上がる現象を、デンマークでは「ぬまばばさまが、酒をつくっている」というそうですが、オルセンは、当時幼かった息子とともに、それを、あたかも古来から言い伝えられている昔話のように仕立て、さまざまな個性的な登場人物をつくりだし、季節のうつりかわりを表現しながらまとまったストーリーとして描いています。1981年には短編アニメーション映画となり、オルセン自身がセル画を描き、ナレーションを行いました。

『ぬまばばさまのさけづくり』より 1966年

デンマークのアンデルセン、オルセン

アンデルセンと同じ母国デンマークに生まれたオルセンにとって、アンデルセンの話に絵を描くことは特別の意味をもつようです。既に1950年代から、アンデルセンの童話に絵をつける仕事はしており、1972年には国際アンデルセン賞画家賞を受賞していますが、福音館書店から、『アンデルセンの童話』の絵の依頼を受けたときのことを、オルセンはこう記していいます。「アンデルセンの世界を描くことは至難のわざでした。わたしは何度も、他ならぬアンデルセンに手助けを求めたくなりました。一体この箇所をどう描いたらいいのかと、直接彼に教えてもらいたかったのです。」
そのような苦悩を感じさせない、躍動感あふれるこの絵の中央には、お姫さまの婿に選ばれようと用意周到な兄ふたりを尻目に、馬をもらえずヤギに乗った無邪気な弟のハンス。両手を上げ、こちらに突進してくるハンスの声まで聞こえてきそうです。
オルセンの力作の数々をお楽しみください。

『アンデルセンの童話』より 1992年